壮絶な幼少期を乗り越え、1997年「家族シネマ」「第116回芥川龍之介賞」を受賞された、作家の柳美里(ゆう みり)さん。以降、「家族」「死」をテーマにした作品を数多く発表し、多くの人々の心を捉えています。

「壮絶な生い立ち~演劇との出会い~」の続き

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「家族シネマ」で芥川賞を受賞

こうして、文才を発揮していかれた柳さんは、
1994年、「石に泳ぐ魚」を、
文芸誌「新潮」に発表し、小説家デビューされると、


石に泳ぐ魚 (新潮文庫)

1996年には、
2作目「フルハウス」が、いきなり、

「第24回泉鏡花文学賞」
「第18回野間文芸新人賞」

を受賞。


フルハウス (文春文庫)

さらに、1997年には、
「家族シネマ」が、
「第116回芥川龍之介賞」を受賞し、
一躍、文学界の寵児として注目されます。


家族シネマ (講談社文庫)

ちなみに、この作品は、離れ離れに暮らしていた家族が、
映画の中で家族を演じるために、再び集まるという設定で、

そこから生じる摩擦を通して、
家族とはなにかを問いかけられているのですが、

柳さんは、実のお父さんが、崩壊した家族を、
一生懸命立て直そうとする姿を見て、

父親としての役割を演じているのだと、
考えられるようになったそうで、

それを、家族全員にもあてはめ、

家族には、父親、母親、兄、姉、妹、弟などが、
それぞれ役を与えられており、
みんながその役割を演じているだけで、

自分が父親や母親になった時には、
親という役割を演じているにすぎない。

と、考えられるようになり、
この作品に反映されたとのことでした。

そして、柳さんは、以降も、
   
1997年「水辺のゆりかご」
     「タイル」

1988年「ゴールドラッシュ」
2000年「男」
     「命」


ゴールドラッシュ (新潮文庫)

2001年「魂」
     「ルージュ」
     「生」

2002年「声」
2004年「8月の果て」
2005年「雨と夢のあとに」


雨と夢のあとに (角川文庫)

2007年「黒」
     「山手線内回り」

2009年「オンエア」
2012年「自殺の国」
2014年「JR上野駅公園口」
2016年「ねこのおうち」


自殺の国

と、立て続けに作品を発表、
いずれも話題となっています。

東由多加との出会い

ところで、柳さんを、
「東由多加(ひがし ゆたか)」で、
多くの方が検索されています。

というのも、東さんは、柳さんが所属されていた劇団、
「東京キッドブラザース」の主宰者であると同時に、
交際相手でもあり、

当時16歳だった柳さんは、入団後まもなく、
39歳だった東さんと同棲を開始。


東由多加さん

そして、18歳の時には、
東さんにその文才をいち早く見抜かれ、

あなたの人生で振り返ると、
家族が崩壊したとか、高校を退学したとか、
全部マイナスだと思ってるけども、

表現する事を選べば、それがプラスになる。
あなたは引き出しを一杯持ってるんだから書きなさい。

と、アドバイスされたそうで、

柳さんは、以後、舞台女優としてではなく、
劇作家として演劇に携わるようになったのでした。

破局

そんなお二人も、
約10年の同棲の末、破局。
(理由は分かりませんでした)

ただ、破局後も、東さんは、
人気作家となった柳さんの第一読者であり、
柳さんの良き相談相手だったようなので

憎み合って別れたわけではないようです。

再び同居へ

そして、それから5年ほど経った頃、
柳さんは、別の男性と不倫の末、
妊娠が判明するのですが、

妊娠6ヶ月でその男性と別れると、
これからどうしたらいいのか途方に暮れてしまい、
相談のため、東さんを訪ねられます。

しかし、その時、東さんは、
具合がとても悪そうだったため、

体調を心配した柳さんが、
病院に連れていき、検査を受けさせると、

診断結果は、
末期の「食道がん」

そこで、柳さんは、東さんに、
同居を持ちかけられたのでした。

柳さんは、後に、

お互い厳しい状況だったんだけども、
お互い生きるというほうに向かって顔を上げようというか、
そういうことで一緒に暮らし始めたんです。

と、語っておられます。

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誕生と死

その後、東さんは、
日本ではまだ認可されていない、
抗がん剤治療を受けに渡米。

髪は抜け、一日中嘔吐するほどの、
激しい副作用に苦しまれていたそうですが、

柳さんの出産予定の頃には帰国されたそうで、
柳さんの陣痛が始まると、

明け方の4時にもかかわらず、
雨の中を飛び出して、タクシーを探され、

病院では、分娩室に入る前まで、
ずっと柳さんに付き添われたのだそうです。


(左から)柳さん、東さん、丈陽ちゃん。

そして、柳さんが無事に男の子(丈陽ちゃん)を出産すると、
東さんは、赤ちゃんを自分の分身だと思い、
まるで自分の子どものようにかわいがられるも、
その3ヶ月後、他界されたのでした。

その年(2000年)、柳さんは、
東さんとの出会いから死別までを書いた小説「命」を発表。

柳さんは、

学校を退学処分になったり、
何度も自殺未遂をしたことに、

あなたは不幸から逃げるなと、
逃げないで不幸を直視して書きなさいと、

言ってくれた師匠でもあったので、
今回も書かなければいけないなと思いました。

と、明かされています。


命 (新潮文庫)

さて、いかがでしたでしょうか?

2015年には、

「生活が困窮している」

と明かされた柳さん。

ピーク時には、1億円以上、
少ない時でも400~500万円あった年収が、

2004年頃からひどいうつ病を患って、
執筆活動に支障をきたしたことに加え、
ネットの普及に伴い、
本が読まれなくなったことで激減。

さらには、東さんの、
アメリカでの高額なガン治療を工面されたり、
無意味にお金を浪費したこと、

また、長く生きたいとも、
生きるとも思っておられなかったため、
貯金を全くされていなかったことで困窮され、

現在は、家賃6万円のアパートに、
住んでおられるとのこと。

しかし、柳さんは、人と接することが苦手なため、
他のどの職業にも就くことができず、

テレビの仕事に関しても、

テレビ番組の出演依頼は何度かありましたね。
引き受けると返事をしても、
番組のスポンサー側から「待った」がかかるんです。

そのたびに、私は依頼してきた担当者を
「あぁ、やっぱり。仕方ないですよ。気にしないでください」
と慰めています。

ネットで「柳美里」と検索すると、
ロクなものしか出てこないんで。

昔は人の噂も七十五日と言いましたが、
ネットにいったん出回った風評や噂話は、
ある人が聞き飽きたとしても、
ある人が初耳である限り拡散され続けます。

でも、「柳美里」のイメージが最悪だということは、
嘆くことではなく、逆によかったと思っているんですよ。

「私には書くことしかない」と、
書くことに追い詰めてくれますからね。

と、語っておられました。

どんなに辛くても、命を断つ勇気がなければ、
生きていかなくてはならない。

これって、もしかしたら、
死ぬことより辛いことなのかもしれません。

でも、柳さんの小説に共感し、
励まされている読者も多いはず。

やはり、柳さんには、
これからも書き続けてほしいですね。

応援しています!!

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