1983~1984年、NHK朝の連続テレビ小説「おしん」で、主人公・おしん(青年期)を演じ、国民的女優と呼ばれるようになった、田中裕子(たなか ゆうこ)さんですが、人知れず、「文学座」出身の役者としてのプライドから、葛藤していたようです。
「田中裕子の「おしん」大ヒットの理由は滲み出る色気だった!」からの続き
「文学座」と「国民的女優」の間で葛藤していた?
おしんの親友・加代役を演じた東てる美さんによると、「おしん」のラストシーンの撮影現場を訪ね、「おつかれさま」と言って、田中さんに花束を渡すと、撮影中は一切弱みを見せなかった田中さんが涙を流したそうですが、
田中さんと同じ「文学座」出身で、おしんの夫役を演じた並樹史朗さんは、
今思うと若気の至りですが、僕ですら、文学座俳優のプライドというか、演劇からNHKの朝ドラというまったく違う環境にきて、「俗」に触れてしまったというショックが当時はあったんです。
裕子さんは僕の何倍もそういう葛藤があったと思います。彼女は朝ドラ自体は「マー姉ちゃん」で経験していましたが、「おしん」は国民的ドラマになってしまった。
おしんフィーバーの中、撮影現場に自民党の議員が視察に来たこともあるんですが、その際、裕子さんに言われました。「並樹くん、絶対歯を見せないようにしようね」って。すごい考えの持ち主だな、と思いました。
と、語っており、
田中さんは、人知れず、「文学座」(演劇)出身の役者であるというプライドと、ドラマの大ヒットによって国民的人気女優になってしまった現実との間で、葛藤されていたようです。
ちなみに、「おしん」は、「文学座」が、田中さんに「おしん」(国民的女優)のイメージがついてしまうのを嫌って、再放送を許可せず、「おしん」が全編通して再放送できるようになったのは、最終話から約20年後の2003年だったそうですが(1984年夏に再放送されていますが、おしんの「幼年期」の部分だけだったそうです)、
もしかしたら、田中さんご自身も、俗っぽく、「国民的女優」とイメージされ続けることを嫌がったのかもしれません。
「天城越え」では海外の最優秀女優賞も受賞
さて、そんな田中さんは、「おしん」と並行して、1983年には、映画「天城越え」で、主人公の少年が心惹かれる、艶のある謎めいた女性を演じられているのですが、
「キネマ旬報賞」主演女優賞
「第26回ブルーリボン賞」主演女優賞
「毎日映画コンクール」女優主演賞
など、日本国内の映画賞のほか、
「1983年モントリオール世界映画祭」
「アジア太平洋映画祭」
など、海外でも最優秀女優賞に輝かれるなど、実力派女優としての地位を不動のものにされています。
「天城越え」より。田中さんと渡瀬恒彦さん。
CMでタコ?
また、田中さんは、同年、「キリン缶チューハイ」のCMにも出演されているのですが、
タコが言うのよね~、タコがさ。
タコが言うの。好きな人ができたんだって。
タコが泣くのよ~。一流大学出た、いいとこのお嬢さんだってさ。
いや~。人間やっていくのも大変だけど、タコやっていくのも大変なんだねえ。
と、気だるい語り口調が注目を集め、タコのキャラクターとともに、ますます人気を博すと、
1985年には、「文学座」を退団し、以降、数多くのテレビドラマや映画で、シリアスな役からひょうきんな役まで幅広く演じ、独特の魅力を放つ女優として、引っ張りだことなられたのでした。