1947年1月、7歳の時に、「壽式三番叟」の附千歳役で初舞台を踏んで以来、数多くの歌舞伎作品に出演すると、埋もれていた古狂言を復活上演するほか、宙乗りや派手な立ち回りでエンターテイメント性に富んだ「スーパー歌舞伎」の演出もするなど、昭和から平成にかけての歌舞伎界に大きな功績を残した、二代目市川猿翁(にだいめ いちかわ えんおう)さん。今回は、そんな猿翁さんの出演作品と受賞歴、著書をご紹介します。
「市川猿翁(2代目)は独バイエルン国立歌劇場オペラの演出もしていた!」からの続き
出演作品(歌舞伎)
猿翁さんは、1947年1月、7歳の時に、三代目市川團子として東京劇場「壽式三番叟(ことぶきしき さんばそう)」の「附千歳(つけせんざい)」役で初舞台を踏むと、
1955年には、「連獅子(れんじし)」で子獅子役、「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」で久吉役、
1956年には、「弁慶上使(べんけいじょうし)」で腰元しのぶと卿(きょう)の君の2役、
1957年には、歌舞伎座「荒絹(あらぎぬ)」(志賀直哉作)で阿陀仁役、
1958年には、新宿松竹座「二人三番叟(ににんさんばそう)」、
1960年には、新宿第一劇場「河庄(かわしょう)」で治兵衛役を演じ、
1963年5月には、歌舞伎座「吉野山(よしのやま)」で「忠信」役、「黒塚」で「鬼女」役、「鎌倉三代記」で「三浦之助」役、「河内山」で「松江候」役などで三代目市川猿之助を襲名しています。
また、2012年6月、7月には、新橋演舞場で二代目市川猿翁を襲名しています。
埋もれていた古狂言の復活通し上演をする
そんな猿翁さんは、昭和から平成にかけての歌舞伎界に、主に2つの大きな功績を残しているのですが、
まず一つ目は、埋もれていた古狂言の復活通しで、古い資料をもとに新しい台本を創作し、ケレン(宙乗り、綱渡り、早替り)など、スピーディで視覚美に富んだ演技、演出を取り入れると、1967年初演の「金門五山桐(きんもんごさんのきり)」から2003年の「競伊勢物語(はでくらべいせものがたり)」まで18作品を超える作品を上演しています。
(1968年「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」で、初めて宙乗りを披露しています)
中でも、1979年には、四世鶴屋南北が1815年に手がけた作品を復活させた「伊達の十役」(「慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)」)で、伊達騒動物に出る主要な10役を早替りで演じ切り、観客を魅了しています。
現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」
そして、もう一つが、歌舞伎の演技法を活かしながら、最新の舞台機構、美術、照明を駆使した、現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」で、1986年に「ヤマトタケル」を初演すると、
以降、1989年「リュウオー・龍王」、1991年「オグリ・小栗判官」、1993年「八犬伝」、1996年「カグヤ」、1997年「オオクニヌシ」、1999年「新・三国志」、2001年「新・三国志II・孔明篇」、2003年「新・三国志III・完結篇」と、シリーズ化しています。
また、「埋もれていた古狂言の復活通し」と「スーパー歌舞伎」のほかにも、「義経千本桜 忠信篇」など古典10作品の新演出したものや、舞踊劇集「華果十曲」なども上演しています。
「スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』」より。ヤマトタケルに扮する猿翁さん。
猿之助十八番
ちなみに、猿翁(当時は三代目市川猿之助)さんは、1988年、これらの演目を18撰し、「猿之助十八番」としています。
- 『金門五山桐』(きんもん ごさんの きり)
- 『義経千本櫻・忠信編』(よしつね せんぼん ざくら・ただのぶ へん)
- 『金幣猿島郡』(きんのざい さるしま だいり)
- 『加賀見山再岩藤』(かがみやま ごにちの いわふじ)
- 『南総里見八犬伝』(なんそう さとみ はっけんでん)
- 『小笠原諸礼忠孝』(おがさわら しょれいの おくのて)
- 『雙生隅田川』(ふたご すみだがわ)
- 『君臣船浪宇和島』(きみはふね なみの うわじま)
- 『慙紅葉汗顔見勢』(はじもみじ あせの かおみせ)
- 『二十四時忠臣]』(じゅうにとき ちゅうしんぐら)
- 『出世太閤記』(しゅっせ たいこうき)
- 『獨道五十三驛』(ひとりたび ごじゅうさんつぎ)
- 『天竺徳兵衛新噺』(てんじくとくべい いまよう ばなし)
- 『當世流小栗判官』(とうりゅう おぐり はんがん)
- 『御贔屓繋馬』(ごひいき つなぎうま)
- 『菊宴月白浪』(きくのえん つきの しらなみ)
- 『ヤマトタケル』
- 『重重人重小町櫻』(じゅうにひとえ こまち ざくら)
(『義経千本櫻・忠信編』と『ヤマトタケル』以外は、通しだったことから、猿翁さんは、2000年には、この2作を、『太平記忠臣講釈』(たいへいき ちゅうしん こうしゃく)と『四天王楓江戸粧』(してんのう もみじの えどぐま)の2作に差し替えると発表しています)
猿之助四十八撰
さらに、2010年には、「猿之助十八番」を見直して、
- 「復活通し狂言」…通し狂言を復活させたもの
- 「猿之助新演出」…古典歌舞伎を新しい演出で再構成したもの
- 「華果」(かか、猿翁さんの俳名)…自身が得意とする舞踊劇
- 「スーパー歌舞伎」…スーパー歌舞伎と新作歌舞伎
の4項目に分類した、「猿之助四十八撰」を制定しています。
復活通し狂言十八番
- 『金門五山桐』(きんもん ごさんの きり)
- 『金幣猿島郡』(きんのざい さるしま だいり)
- 『加賀見山再岩藤』(かがみやま ごにちの いわふじ)骨寄せの岩藤
- 『南総里見八犬伝』(なんそう さとみ はっけんでん)
- 『小笠原諸礼忠孝』(おがさわら しょれいの おくのて)小笠原騒動
- 『雙生隅田川』(ふたご すみだがわ)
- 『君臣船浪宇和島』(きみはふね なみの うわじま)宇和島騒動
- 『慙紅葉汗顔見勢』(はじもみじ あせの かおみせ)伊達の十役
- 『二十四時忠臣蔵』(じゅうにとき ちゅうしんぐら)
- 『獨道五十三驛』(ひとりたび ごじゅうさんつぎ)
- 『天竺徳兵衛新噺』(てんじくとくべい いまよう ばなし)
- 『當世流小栗判官』(とうりゅう おぐり はんがん)
- 『御贔屓繋馬』(ごひいき つなぎうま)
- 『菊宴月白浪』(きくのえん つきの しらなみ)
- 『重重人重小町櫻』(じゅうにひとえ こまち ざくら)
- 『四天王楓江戸粧』(してんのう もみじの えどぐま)
- 『四谷怪談忠臣蔵』(よつやかいだん ちゅうしんぐら)
- 『競伊勢物語』(はでくらべ いせものがたり)
猿之助新演出十集
- 『太平記忠臣講釈』(たいへいき ちゅうしん こうしゃく)
- 『傾城反魂香』(けいせい はんごんこう)
- 『新舞台水昇鯉滝』(しんぶたい みずや こいたき)鯉つかみ
- 『奥州安達原』(おうしゅう あだちがはら)二・三段目
- 『義経千本桜』(よしつね せんぼんざくら)忠信篇
- 『黒手組曲輪達引』(くろてぐみ くるわの たてひき)黒手組助六
- 『敵討天下茶屋聚』(かたきうち てんがぢゃや むら)
- 『於染久松色読販』(おそめ ひさまつ うきなの よみうり)お染の七役
- 『摂州合邦辻』(せっしゅう がっぽうがつじ)
- 『国性爺合戦』(こくせんや かっせん)
華果十曲
- 『橋弁慶』(はし べんけい)
- 『奴道成寺』(やっこ どうじょうじ)
- 『望月』(もちづき)
- 『景事杉酒屋』(けいごと すぎざかや)
- 『太閤三番叟』(たいこう さんばそう)
- 『流星』(りゅうせい)
- 『鬼揃紅葉狩』(おにぞろい もみじがり)
- 『大江山酒呑童子』(おおえやま しゅてんどうじ)
- 『日本振袖始』(にほん ふりそで はじめ)
- 『華果西遊記』(かか さいゆうき)
新作・スーパー歌舞伎十番
- 『ヤマトタケル』
- 『リュウオー』龍王
- 『オグリ』小栗判官
- 『八犬伝』南総里見八犬伝
- 『カグヤ』新竹取物語
- 『オオクニヌシ』
- 『新・三国志』
- 『新・三国志 II』孔明篇
- 『新・三国志 III』完結編
- 『新・水滸伝』
出演作品(テレビドラマ)
そんな猿翁さんは、歌舞伎以外にも、
テレビドラマでは、
1964年「若き日の信長」
出演作品(映画)
映画では、
1957年「大忠臣蔵」
1958年「楢山節考」
1961年「大坂城物語」
1962年「忠臣蔵 花の巻・雪の巻」
などに出演されています。
著書
また、
「演者の目」(1976年、朝日新聞社)
「猿之助修羅舞台-未来は今日にあり」(1984年、大和山出版社) ※文庫化(PHP文庫)
「猿之助の歌舞伎講座 とんぼの本」(1984年、新潮社)
「市川猿之助 歌舞伎の時空」(1986年、PARCO出版局) ※稲越功一写真、1993年に講談社で新版
「夢みるちから スーパー歌舞伎という未来」 (2001年、春秋社)(横内謙介共著)
「スーパー歌舞伎 ものづくりノート」(2003年、集英社新書)
など、著書も出版されています。
受賞・受章歴
そんな猿翁さんは、
1965年には、「第11回テアトロン賞」
1969年には、「名古屋ペンクラブ賞」
1976年には、「芸術選奨新人賞」
1980年には、「松尾芸能賞優秀賞」
1984年には、「毎日芸術賞」
1985年には、「日本文化デザイン賞」
1990年には、「芸術選奨文部大臣賞」
1996年には、「読売演劇大賞優秀男優賞、菊池寛賞」
など、数々の賞を受賞するほか、
1981年には、「ボローニャ市文化功労章」
1987年には、「フランス芸術文化勲章オフィシエ」
1988年には、「都民文化栄誉章」
2000年には、「紫綬褒章」
も、受章し、
2010年には、「文化功労者」
2013年には、「第22回モンブラン国際文化賞」
にも選出されています。
「市川猿翁(2代目)は藤間紫と不倫し浜木綿子と離婚していた!」に続く