それまでの立ち回り主体の時代劇とは一線を画した、風刺と諧謔、人間味に富んだ、新しいタイプの時代劇を次々と発表すると、1938年、38歳からは闘病生活を送りながらも、精力的に脚本を執筆していたという、伊丹万作(いたみ まんさく)さん。

そんな伊丹万作さんのプライベートはどのようなものだったのでしょうか。

今回は、伊丹万作さんの、妻との馴れ初め、結婚後の夫婦関係(夫婦仲)についてご紹介します。

伊丹万作

「伊丹万作の若い頃は?脚本監督デビューからの映画や著作は?死因は?」からの続き

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伊丹万作の妻との馴れ初めは?

伊丹万作さんは、1930年、30歳の時に、野田キミさんと結婚しています。

実は、野田キミさんは、伊丹万作さんの中学時代の同級生・野田実さんの妹で、野田キミさんの生家と伊丹万作さんのお母さんの実家が同じ村で近所だったことから、

伊丹万作さんが初めて野田キミさんに出会ったのは、野田キミさんが小学5年生くらいの時だったそうです。

(野田実さんは海軍少尉だったそうですが、肺を患い、1923年5月、23歳の若さで他界されたそうです)

伊丹万作は妻・キミに隣組の付き合いや勤労奉仕を全て頼っていた

結婚後、キミさんは、病弱だった伊丹万作さんに代わって、隣組(第二次世界大戦下の日本で、国民統制のために組織された地域組織)との付き合いを全て担っていたそうですが、

キミさんは、家の中ではどんなに無理をしてでも、社会的な義務や恩義は守ろうとする人だったそうで、

戦争中、しばしば、勤労奉仕(社会や公共のために無償で働くこと)をし、激しい勤労奉仕の後では、過労のため、決まって2~3日寝込んでいたといいます。

(キミさんは、結婚して以来、これといった病気はしなかったそうですが、少女時代に肺を病んだことから、その影響で、少し過労が続くと「背中が熱くなる」と訴えていたといいます)

伊丹万作は妻・キミに家計のやりくりの一切を任せていた

しかも、伊丹万作さんは、家計のやりくりの一切をミキさんに任せていたそうですが、ミキさんは、無駄遣いはしないながら、やりくりはあまり上手ではなかったそうで、

伊丹万作さんは、そんなキミさんについて、「わが妻の記」で、

ときに亭主に黙つて好きな陶器や家具を買うくらいが関の山である。家計簿はつけたことがない。私がどんなにやかましくいつても頑として受け付けない。そういうことはできない性分らしい。

近ごろではこちらが根負けして好きにさせてある。結婚当時の私の定収入は月百円、シナリオを年に二、三本書いて、それが一本二百円くらいの相場だつたから、どうやらやつては行けたが、彼女の衣類が質屋に行つたことも一、二度あつた。

昭和八、九年ごろから十三年ごろまでは一番楽な時代で、この間はずつと八百円くらいの月収があつたから、保険をかけ、貯金をし、家具を備え、衣類を買うことができた。

昭和十三年に私が発病してからは彼女の御難時代で、ことに現在では当時の半分しか収入がないうえに、物価が百倍にもなつたため貯金を費い果し、保険を解約して掛金を取りもどしたりしたが、それもほとんどなくなつた。

昨年の秋からは、妻にも明らかに栄養失調の徴候が現われ始めた。要するに、現在(1946年)は妻にとつて結婚以来もつとも苦難の激しい時である。

と、詳細に綴っています。

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伊丹万作は妻・キミの行儀が「むちゃくちゃ」だったと語っていた

ちなみに、キミさんは、行儀も、(伊丹万作さんいわく)「むちゃくちゃ」だったそうで、

例えば、

  • 寝ている伊丹万作さんのところへ来て立ったまま話をする
  • 枕の覆いを洗濯する時、黙っていきなり伊丹万作さんの頭の下から枕を引き抜く
  • 朝、掃除のために部屋に入ってくると、まず、そこらへんの畳の上にほうきをバタンと投げ出して、いきなりパタパタとはたきをかけ始める
  • 敬語が話せない

などがあったそうですが、

その中でも、特に、ひどかったのが、敬語があまり話せないことだったそうで、

伊丹万作さんは、著書「わが妻の記」で、

私は何とかしてこれを直そうと思い、数年間執念に戦つてみたが、遂に何の効もなく、これも結局こちらが根負けしてしまつた。

考えてみると、何とかして妻を自分の思うように変えてみたいという気持ちが私にある間、私の家ではあらそいの絶え間がなかつた。

しかし、そのようなことは所詮人間の力でできることではないと悟つてからはむだな努力を抛棄したから、今ではほとんどけんかがなくなつてしまつた。

つまり、亭主というものは、妻をもらうことはできるが、妻を作ることはできないものらしい。

と、綴っています。

「伊丹万作の子供は息子と娘!長男は伊丹十三!長女は大江ゆかり!」に続く

お読みいただきありがとうございました

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