終戦後は、ソ連兵に家に押し入られて銃口を突きつけられたり、ソ連兵が婦女暴行をしている現場を目撃するも何も出来なかったりと、悲惨な少年期を過ごされた、宝田明（たからだ あきら）ですが、悲惨な戦争体験はまだまだ続きます。
「宝田明の少年時代は敗戦後ハルビンで悲惨な体験をしていた！」に続く
ソ連兵に撃たれる
ある日のこと、宝田さんが、社宅から駅の方を見下ろしていると、関東軍の兵隊たちが貨物列車に揺られながら、社宅の方に向かって、「武運長久」と書かれた日の丸を振っているのが見えたそうで、
あれ、あそこに出征した兄がいるんじゃないか
と、いてもたってもいられなくなり、社宅の外に飛び出し、列車に近づいたそうです。
すると、兵隊たちが
帰れ、帰れ
と、手で合図をするので、
何でだろう
と、思った次の瞬間、
「ダダダダッ」「ピュンピュンピュン」と音がして、ソ連兵が自分に向かって撃って来たことに気づき、無我夢中で、四つん這いになって逃げ、ようやく家にたどり着いたのですが・・・
右腹が、「熱い」「痛い」「痛い」「熱い」の連続だったそうで、服を開けてみたところ、血だらけになっていたのでした。
麻酔なしでダムダム弾摘出手術～傷口も縫わず
そして、２、３日して、傷口が膿（う）み、高熱でうなされていると、旧関東軍の軍医で「満鉄」の嘱託医だった人が来て、お母さんと何か話した後、お母さんに、
ベッドに手足を縛れ
というのが聞こえてきたそうで、
その後、宝田さんは、まるでイカの干物のようにベッドに手足を縛られ、その軍医が、お母さんに焼いた裁ちばさみを持ってこさせ、「オキシュール」で消毒すると・・・
その次の瞬間、
じゃ、頑張れっ
と、言いながら、その裁ちばさみをズボッと傷口に入れたというのです。
そして、ジョキジョキジョキと麻酔なしで傷口を切られた宝田さんは絶叫！！
ただ、大量の膿（うみ）と共に、無事、銃弾が取り出され、宝田さんは一命を取り留めたのでした。
（取り出されたのは、「ダムダム弾」という国際条約で禁止されていた鉛の弾で、体内に入ると、つぶれて広がり、肉が腐るといった恐ろしい銃弾だったそうです。）
それでも、糸も針もないため、傷口はそのまま。しかも、抗生物質も薬もない状態だったそうで、どれだけの痛みだったか想像を絶します。
(今でも、天気が悪いと、傷口がシクシクと痛むそうです)
ソ連軍の強制使役に駆り出される
こうして、一命を取り留めた宝田さんでしたが、その後は、ソ連軍により、お父さんと中学生だった3番目のお兄さんと3人で日替わりで強制使役に駆り出されるようになったそうで（3日後に自分の番が回ってくる）、ハルビン駅のそばから、もっこを担（かつ）いで、貨物列車に石炭を入れていくという仕事をさせられたそうです。
そして、ある時には、宝田さんが、お母さんから渡された弁当を昼食に食べ終えた後、ソ連兵の目を盗んで、弁当箱に石炭を入れて、雑のう（かばん）に潜ませ、持って帰ろうとすると、ソ連兵に見つかってしまい、かしの棒で、頭が割れるかと思うほど殴られたこともあったそうです。
（ただ、失敗したのは最初だけで、その後は何度か成功したそうです）
そんなソ連兵からの様々な仕打ちを受けてきた宝田さんは、暴行、略奪、婦女暴行など残虐行為の限りを尽くしたソ連兵について、
そういうことがあるので、ソ連という国、兵隊たちが犯したもの、私自身が受けたことによって、ソ連の一兵卒だけでなく、国全体を受け入れられない、否定してしまうわけです。実はいまだにそれは残っているわけですよ。
おかげで、映画にせよ何にせよ、ソ連が作ったどんな芸術作品を見ても、憎しみが先に立って、いっさい感動することはできません。作品に罪はないんですが、困ったものです。日本の作品に対して、同じ思いを抱く人もいるでしょうね。
戦争は結局、憎悪を生む。それが戦争なんだと。戦闘員だけが戦うのではなく、無辜（むこ）の民がひどい目に遭って死を迎えたり、残虐行為で心に大きな傷を抱いているわけですよね。
私がこうであったのと同じように、日本が大東亜戦争で、それぞれ行った先で植民地解放の大義名分があったにせよ、やっぱり一般民衆を殺してきたことは事実。これは彼我共にあるんです。それが戦争なんです。戦争ってのは、末端のところは殺し合いなんですから。
略奪、暴行の限りを尽くしたソ連軍に比べ、八路軍（※）はわれわれの社宅にも絶対入りません。取るな、盗むな、犯すながきちっと守られている。あれは、農民に支持されますよ。
と、語っておられました。
（※八路軍とは中国軍のことで、ソ連兵がハルビンに入って1年後に入ってきたそうです）
「宝田明は戦後ハルビンに兄を置き去りに一家で日本へ引き揚げていた！」に続く
