映画「戦場のメリークリスマス」では、主人公・ジャック・セリアズ陸軍少佐役に想定していた、米俳優のロバート・レッドフォードさんに出演を断られてしまった、大島渚(おおしま なぎさ)さんですが、その後、日本でも人気を博していた、英国のロック歌手・デヴィッド・ボウイさんに白羽の矢を立てたといいます。
「大島渚は「戦場のメリークリスマス」でロバー・レッドフォードに断られていた!」からの続き
姪の臼井久仁子がセリアズ陸軍少佐役にデヴィッド・ボウイを提案
映画化を実現するために、もっとも重要視されていたロバート・レッドフォードさんの出演がなくなったことから、興味を示していたスポンサーも離れ、早くも「戦場のメリークリスマス」の製作には、暗雲が立ち込めたそうですが、
(物語の中心人物であるジャック・セリアズ陸軍少佐役を演じる役者が決まらないため、資金集めも他の配役も停滞していたそうです)
そんな中、大島さんの姪(めい)で、企画当初から関わっていた臼井久仁子さんが、主人公のジャック・セリアズ陸軍少佐役に、英国のロック歌手・デヴィッド・ボウイさんはどうかと提案したそうです。
(というのも、ボウイさんは、もともと親日家で、日本文化にも深い理解を持っており、1980年には、宝酒造「純」のCMに出演し、日本でも一般的に知られる存在となっていたからだそうです)
宝酒造「純」のCMに出演するデヴィッド・ボウイを見てセリアズ陸軍少佐役を決めていた
そこで、大島さんは、宝酒造「純」のCMを見直すと、
セリエ(映画ではセリアズ)という男の持っている精神的な強さ、貴族性、カリスマ性みたいなものからいえば、非常に向いてるんじゃないか
と、ジャック・セリアズ役にはデヴィッド・ボウイさんがいいと確信したそうで、
すぐさま、ボウイさんに手紙と脚本を送ると、ボウイさんからは、すぐに、「大いに興味がある」という電報が届いたそうで、1980年10月、大島さんは、ボウイさんに会いに、ニューヨークを訪れたのだそうです。
宝酒造「純」のCM出演時のデヴィッド・ボウイさん。
舞台「エレファント・マン」でのデヴィッド・ボウイの演技を観て衝撃を受けていた
すると、ボウイさんは、ちょうどこの時、ニューヨークのブロードウェイ舞台「エレファント・マン」に出演中だったそうで、大島さんは、この舞台を観ようと、ボウイさんに連絡を取ったそうですが、ボウイさんからは、すでにチケットは手配してあるので翌日の舞台を観てほしいと言われたそうで、大島さんは、この対応に感激。
さらには、翌日、舞台でのボウイさんの演技を観ると、
彼の白い腕や脚や顎が異様にねじれ、心にしみ通るあの声が甲高い吃音になって響く時、観客は象人間(エレファントマン)の悲劇に体の底から感応させられるのだった
と、衝撃を受けたのだそうです。
というのも、大島さんは、この舞台を観るまで、ボウイさんは演技については素人(しろうと)だろうと思っていたからなのですが、
大島さんは、決してボウイさんを見下していたわけではなく、若い頃から、「一に素人、二に歌うたい、三、四がなくて五に映画スター、六、七、八、九となくて十に新劇」と公言するほど、演技経験のない素人や新人、歌手などを積極的に起用しており、
「愛と希望の街」「太陽の墓場」「日本春歌考」「新宿泥棒日記」などの主人公にも、新人、歌手、素人を起用しています。そして、万が一、素人がダメなら、とびきりのスターを起用する、というのが大島さんのキャスティングだったそうです。
「大島渚は「戦メリ」でデヴィッド・ボウイからアドバイスされていた!」に続く
舞台「エレファント・マン」より。左がデヴィッド・ボウイさん。