帝国劇場が研究生を募集している広告を見つけテストを受けると、見事合格して「赤い絨毯」で初舞台を踏むも、それから２年も経たないうちに劇団が解散してしまい、周囲が東宝演劇部や撮影所で働くことになる中、若い頃の苦労は買ってでもしようと、芸を極めるべく職探しを始めたという、財津一郎（ざいつ いちろう）さんは、米軍キャンプを回るジャズシンガーという仕事を見つけたといいます。
「財津一郎が若い頃は帝国劇場に研究生として入団していた！」からの続き
米軍キャンプのジャズシンガーに合格
帝国劇場の劇団が解散となって仕事を失ったことから、これをきっかけに芸を極めようと、職探しを始めた財津さんは、１９５５年のある日のこと、日本国内の米軍キャンプを回るジャズシンガーを探しているという話が舞い込んできたそうで、早速、歌の試験を受けると、見事合格。
財津さんは、ジャズシンガーとして北海道から沖縄まで全国各地を巡ると、財津さんの歌声は米兵の間で評判となり、いつしか、米兵たちから、「ジミー・ザイツ」のニックネームで呼ばれるようになったそうです。
人気ジャズシンガーのアル・ジョンソンをマネて黒塗りの顔で歌うよう依頼される
そんなある日のこと、財津さんが、皇居近くにあった「キャンプ・マリー」を回っていると、将校クラブのマネージャーに呼び出され、
トゥナイト、ユー、ブラックフェース、OK？
と、聞かれたことから、
財津さんは、すぐにOKし、顔を黒くして歌うことになったそうです。
（当時、アメリカでは、白人でありながら、顔を黒塗りにし黒人を演じて歌う、アル・ジョルソンというジャズシンガーが人気を博していたそうで、財津さんも大好きな歌手だったそうです）
アル・ジョルソンになりきってショーを成功させるも・・・
こうして、財津さんは、顔に真っ黒いドーランを塗り、口の周りだけ白くメイクして、タキシードを着て舞台に立ち、アル・ジョルソンになりきって歌うと、将校たちは大喜びで、財津さんの歌声に合わせて大合唱してくれたそうで、
財津さんは、
よかった。うけたぞ
と、ほっと一安心したそうですが・・・
激怒した黒人兵に絡まれる
ショーが終わり、大満足で楽屋に戻ると、ほっとしたのも束の間、激怒した黒人兵が、
今のジャップ（日本人）を出せ
と、ジャックナイフを持って近づいて来たそうで、
財津さんは、慌てて、
ただのショーだ。ブラックミュージックが好きなんだ
と、片言の英語で必死に説明したそうですが、
黒人兵は、財津さんを睨（にら）みつけたまま、ジャックナイフをカチャッカチャッと開いたり畳んだりし、ついには、財津さんの方に刃を向けて、ジャックナイフを投げつけてきたのだそうです。
（その黒人兵は、まるで、ボクシング元世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリのような大男だったそうで、財津さんは、命の危機を感じ、ガタガタと体の震えが止まらなかったそうです）
若いMP(憲兵）に助けられる
ただ、ナイフは財津さんには当たらず、その直後、若いMP（憲兵）が来て、裏門からバスに乗せて助けてくれ、
アル・ジョルソン、おれも好きだぜ
君の歌は最高さ
と、裏門に到着するまで、鼻歌を歌いながら財津さんを励まし続けてくれたそうで、
財津さんは、その優しさが身に染み、涙が止まらなかったそうです。
「財津一郎は昔｢榎本健一映画研究所｣で演技の基礎を学んでいた！」に続く
