1973年8月30日の中日戦で、史上初の延長戦でのノーヒット・ノーランを達成するも、阪神が優勝に手が届く位置にいたことから、阪神の優勝のことで頭がいっぱいだったという、江夏豊(えなつ ゆたか)さんですが、同年10月19日、阪神がマジック1となり、明日の中日戦か明後日の巨人戦に勝てば優勝という時に、なんと、阪神の球団幹部から、優勝すると金がかかるからと、負けるよう指示されたといいます。

「江夏豊は若い頃自身の本塁打で延長戦ノーヒットノーランを達成していた!」からの続き

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マジック1で迎えた中日戦には相性抜群の上田二朗ではなく相性の悪い江夏が先発に起用されていた

1973年10月20日、阪神は、マジック1で残り2試合となり、この日の中日戦か、翌日の巨人戦のどちらかに勝てばリーグ優勝が決まる状況だったそうで、

この年、これまで22勝をあげ、そのうち8勝を中日戦であげていた上田二朗さんが登板するのが妥当だと考えられていたのですが、

なぜか、この年、中日と相性が悪く、中日戦で3勝しかしていなかった江夏さんが先発に起用されたそうです。

(メンバー表の交換に出たヘッドコーチの岡本伊三美さんはベンチに引き返し、金田正泰監督に「江夏なんですか?」と確認するほどだったそうです)

力が入り過ぎて負け投手に

それでも、江夏さんとしては、優勝がかかった試合は、エースである自分が行くべき、優勝を決めるのは自分しかいない、との思いがあったそうですが・・・

6回9安打3失点で負け投手となってしまいます。

というのも、負けてしまったのは、いつになく、力が入り過ぎてしまったからだといいます。

そして、それは、優勝を意識して力が入り過ぎたわけではなく、別の理由があったといいます。

前日に阪神の球団幹部から呼び出されていた

それは、その前日の10月19日のこと、この日は、名古屋への移動日に当てられていたのですが、懇意にしていた報知新聞の記者・蔦行雄さんから、この年からパ・リーグで採用されたプレーオフの観戦記を書いてほしいと、ひと仕事持ちかけられたそうで、

その第1戦が19日、大阪球場で行われることになっていたため、江夏さんが、大阪球場に向かおうとしていると、

(ペナントレースの大詰めで、江夏さんのような現役選手が、寄稿のような仕事を引き受けることは、今では考えられませんが、当時は、珍しいことではなかったそうです)

どこでこの話を聞きつけたのか、阪神球団が、大阪球場に行くのなら、その前に梅田の球団事務所に寄ってくれないか、と連絡してきたのだそうです。

阪神の長田睦夫球団社長と鈴木一男常務から中日戦に負けるよう言われていた

そこで、江夏さんは、あと2試合で1つ勝てば優勝という状況だったことから、てっきり、優勝のご褒美の話かと思い、ルンルン気分で梅田の球団事務所に行ったそうですが・・・

そこには、長田睦夫球団社長と難しい顔をした鈴木一男常務が待っていたそうで、

(鈴木常務は、普段は明るく、いつも冗談ばかり言っているような人だったそうですが、この時ばかりは難しい顔をして、やけに部屋の空気が重かったそうです)

江夏さんが、何かなと、身構えていると、

二人から、

これは金田(正泰)監督も了解していることだが、名古屋(中日戦)で勝ってくれるな

と、耳を疑うようなことを言われたというのです。

阪神の長田睦夫球団社長と鈴木一男常務から「優勝すると金がかかる」と言われていた

これには、江夏さんは、一瞬、意味が分からなかったそうですが、

二人は、「優勝すると金がかかる」などとブツブツ言っていたそうで、

江夏さんは、

優勝したら選手の年俸も跳ね上がるだろうし、パレードの費用もかかるかもしれない。しかし、だからと言って、優勝しなくていいという球団があるだろうか。監督も了解しているとは一体どういうことなんだ・・・

と、思いながら、話を聞いていたそうですが、

そのうち、怒りで体がカーっと熱くなり、気がつくと、テーブルをひっくり返していたそうで、

こうなったら絶対勝ってやる

と、奮い立ったそうですが、

その気持が裏目に出て力みすぎ、2対4で中日に敗れてしまったのでした。

(ちなみに、江夏さんは、このことを、事務所下で待っていた報知新聞の記者・蔦行雄さんに話したそうですが、さすがに、話が重すぎたことから、蔦さんは、何とも言えない顔をして、「これは、書けんなあ」と言ったのだそうです)

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勝った方が優勝となる巨人戦で惨敗

それでも、阪神は、最終戦(10月22日)の巨人戦(甲子園)に勝てば優勝だったことから、江夏さんは、中1日あれば十分投げられると、投げる気満々だったそうですが、

(もともと、巨人戦は、中日戦の翌日の21日だったそうですが、雨で22日に順延となったそうです)

先発には、上田二朗さんが登板すると、初回から巨人打線に攻め立てられ、2回と持たなかったそうで、結果、0対9と2塁も踏めぬ惨敗で、巨人に優勝を許したのだそうです。

(ちなみに、阪神の優勝を待ち望んでいた阪神ファンが、目の前で起きた惨劇に怒りを爆発させ、グランドになだれ込んで、巨人ベンチに殺到したことから、巨人は胴上げどころではなくなったそうですが、大一番で出る幕のなかった江夏さんは、この光景を複雑な思いで見つめていたそうです)

「江夏豊と金田正泰監督の確執の原因は?」に続く


巨人ナインを襲撃する阪神ファン(中央右は王貞治さん)

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