友人に勧められ、俳優の道を志すと、1952年、約20倍の競争率を突破し、「俳優座」の養成所に入所された、仲代達矢(なかだい たつや)さんですが、当初は、エキストラのオーディションにさえ、連続で落ちるなど苦戦続きだったそうです。

「仲代達矢が俳優を目指したのは生活のためだった!」からの続き

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「七人の侍」では黒澤明監督に歩き方を何度もダメ出しされていた

エキストラに応募しても、オーディションでは落ちてばかりだった仲代さんですが、あきらめかけていた、1954年、黒澤明監督の「七人の侍」で、初めて合格します。

ただ、仲代さんは、街中を通り過ぎていく、セリフのない若侍の役で、歩くだけ、という役だったにもかかわらず、黒澤監督は、

俳優座では歩き方も教えないのか

と、何度もダメ出し。

結局、ワンカットに、午前9時から午後3時まで、ぶっ通しでやらされたそうで、

最後は、

いいや、OK

と、やっとOKとなったそうですが、

仲代さんは、この屈辱が忘れられず、

立派な役者になって、二度と黒澤組には出ないぞ

と、心に誓ったそうです。


「七人の侍」より。仲代さんが歩くシーン。

(とはいえ、後に仲代さんは、この経験から、どんな役でも歩き方は難しいこと、歩くことの重要性を認識し、自身が主宰している「無名塾」での若手の指導でも重要視されたそうです。)

月丘夢路に見初められ映画「火の鳥」で相手役に抜擢

そんな仲代さんは、1955年、約50倍といわれた難関をくぐり抜け、「俳優座」養成所から、正式に「俳優座」に入座されているのですが、

その後、ラジオドラマで雑踏の話し声を出すアルバイトをしていたところ、そのラジオドラマに出演されていた、月丘夢路さんに、

あの人、誰?

と、目を留められ、

月丘さんの主演映画「火の鳥」で、月丘さんの相手役を探していた、月丘さんの夫で映画監督の井上梅次さんを紹介してもらうと、

1956年、映画「火の鳥」に、月丘さんの相手役として抜擢され、本格的な映画デビュー。


「火の鳥」より。

仲代さんによると、すでに大スターだった月丘さんを相手におどおどしながら演じられたそうですが、

その演技は、

今までにない役者だ

と、高い評価を受け、以降、順調に仕事が来るようになったそうで、

翌年の1957年には、小林正樹監督作品「黒い河」で、冷酷なやくざ「人斬りジョー」役を演じ、強烈な存在感を示されたのでした。


「黒い河」より。仲代さんと有馬稲子さん。

(月丘さんは、2017年に他界されているのですが、仲代さんは、月丘さんに「感謝してもしきれません」とおっしゃっています)

映画会社大手5社のオファーを断りフリーで活動

こうして、「火の鳥」以降、順調に俳優としてのキャリアを積まれていた仲代さんは、「日活」「東宝」など、映画会社大手5社から、様々な好条件を提示され、専属俳優になるよう誘われたそうですが、

舞台仲間から、「あ、映画スターだ」と揶揄(やゆ)されることもありましたが、私は映画と舞台の両方が好きだったんです。

と、舞台も続けたかったことから、どこの映画会社とも専属契約を結ばず、フリーで活動されます。

「人間の條件」の主人公に抜擢

そして、1959年には、戦争の中で自らの正義を貫き続ける主人公・梶の姿を描いた、五味川純平さんの同名小説を原作とする小林正樹監督作品「人間の條件 6部作」で、主人公・梶役に抜擢。

小林監督によると、主人公・梶の最期を思い浮かべた時、

梶の狂気に取りつかれた目ができるのは仲代しかない

との理由からの起用だったそうですが、

仲代さんは、主役に選ばれた時、とても驚かれたそうです。

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「人間の條件」では命がけの撮影だった

ただ、いざ撮影が始まると、氷点下30度の中、氷を割って水の中につかったり、戦車に立ち向かうなど、撮影は壮絶だったそうで、特に、10人くらいからリンチされるシーンでは、本当に殴られたため、顔が腫れ、鼻血を出しての撮影だったそうです。

(ちなみに、その時、一番強く殴った人のことは忘れていないとのこと(笑))

また、戦車にひかれそうになる直前、地面に掘った穴に飛び込むという命がけの撮影もあり、仲代さんは、迫りくる戦車を見るのは怖かったため、キャタピラの一点だけを見つめ、夢中で飛び込んだたところ、途端に真っ暗になり、頭上を戦車が轟音とともに通り過ぎて行ったそうで、いまだに、その時のことを覚えておられるとか。

そんな撮影は、1年半にも及んだそうですが、その甲斐あって、小林監督は仲代さんの俳優魂に感服したと言われたようです。

「仲代達矢は黒澤監督の「用心棒」を「七人の侍」の腹いせに断っていた!」に続く

「人間の條件」より。

「仲代達矢は黒澤監督の「用心棒」を「七人の侍」の腹いせに断っていた!」に続く

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