舞台「鐘の鳴る丘」では、出番を勘違いし、慌てて風呂から飛び出て舞台に上がったことから、全裸をさらし、上演を中止に追い込んでしまったという、森繁久彌(もりしげ ひさや)さんですが、主演の井上正夫さんは咎(とが)めるどころかフォローしてくれたといいます。

「森繁久彌は昔舞台「鐘の鳴る丘」で全裸となり上演中止となっていた!」からの続き

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井上正夫は咎めるどころかフォローしてくれた

舞台「鐘の鳴る丘」では、出番を勘違いし、呼ばれるがままに、慌てて風呂から舞台に上がったことから、全裸をさらしてしまい、上演中の舞台を中止にしてしまった森繁さんは、

すぐに、井上正夫さんの楽屋へと出向き、ひざまずいて、

申しわけありません、先生!

と、謝ったそうですが、

井上さんはというと、

私は長い舞台生活で吹いた(笑った)ことは一度もないが、きょうは笑った

と、言ってくれたそうで、

それでも、森繁さんが、

ただただ 申しわけありません

と、重ねて謝ると、

井上さんは、

いや、君の赤裸々の芝居を見せてもらって何よりだ

と、咎(とが)めるどころか、逆にフォローをしてくれたそうです。

ただ、その後も、森繁さんが恐縮していると、

しかし、あすこは、お客に見せるものではありません

とも、言われたそうです(笑)

井上正夫には「器用な役者は大成しない」と教えられる

そんな森繁さんは、井上さんから、

君はなかなか器用だね

と、言われたことがあり、

(素直に褒め言葉として受け取り、黙っておけば良いものを)つい、

先生は、あまり器用な俳優ではないと、お見うけしましたが・・・

と、言ってしまい、

井上さんが、

うむ!

いかにも・・・

と、同意したことから、

しまったと思い、焦って言葉に詰まったことがあったそうです。

井上正夫は無礼な質問にも丁寧に答えてくれた

ただ、井上さんは、その後、

君ね、器用な芝居は大成せんよ

と、言ったそうで、

森繁さんが、わけが分からず、

どういうわけでしょうか

と、聞くと、

井上さんは、

第一、器用な人はカンに頼りすぎるし・・・努力をおこたりがちだからね

と、言ったそうで、

森繁さんが、

じゃあ、お言葉をかえすようですが、無器用でカンの悪い奴でも、努力すれば大成するということになりましょうか

と、不躾(ぶしつけ)にも尋ねると、

井上さん:おい、森繁君!
森繁さん:ハイ
井上さん:(大きな声で)私を見なさい!
森繁さん:ハイ!よく分りました

などのやり取りがあったそうで、

井上さんは、森繁さんの無礼な質問にも、(珍しそうな顔をしながらも)丁寧に、絵などを描いて説明してくれたのだそうです。

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井上正夫を大きい役者だと尊敬するも最後までその正体が分からなかった

ちなみに、森繁さんは、そんな井上さんを、役者として立派で大きい人のような感じがしたそうで、

(ここで言う、大きいというのは、上手下手にかかわらず、舞台を完全にさらい、しかも、観客に安心して観させることができるという意味)

それ以来、大きい人になることが、森繁さんの課題となったそうですが、結局は、「稽古を重ねても必ずしも身につくわけではない」ということが分かっただけで、ついには、それがなんなのかということさえ見つけることができなかったそうです。

(2人の役者が、一見、とてもうまく丁丁発止をやり合ったとしても、必ずしも、大きく見えたり、観客が安心して観ることができる芝居になるとは限らないのだそうです)

「森繁久彌は映画「社長シリーズ」で大ブレイクしていた!」に続く

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