1983年、NHK朝の連続テレビ小説「おしん」では、一言一句間違えることの許されない橋田壽賀子さんの膨大な量のセリフによるストレスや、視聴率が上がり続ける「少女編」からのバトンを受け取るプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、見事、おしん役を演じ切り、大ヒットの立役者となった、田中裕子(たなか ゆうこ)さんですが、そんな田中さんの演技は、共演者たちをも魅了していたようです。
「田中裕子は昔「おしん」で橋田壽賀子の脚本に苦しんでいた!」からの続き
おしんには自然とにじみ出る色気があった
というのも、おしんと言えば、「真面目で働き者で忍耐強い」という役柄ですが、
フリーライターの木俣冬さんによると、
おしんはよく縫い物をしているのですが、作業しながらふっと何気なく頭を掻いたりする仕草に何とも言えない色気を感じます。質素な役のはずなのに、瞬間瞬間に色気が滲み出ているんですよね。
と、田中さんの演技は、ただ、「真面目で働き者で忍耐強い」だけではない魅力があったそうで、
おしんの親友役を演じた東てる美さんも、
確かに。ゾクッとするような色っぽさがあるんですよ。ただ、計算して出してるわけではないと思います。裕子ちゃん本人は色気を隠そうとしてるんだけど、溢れ出てしまっている。
と、田中さんには、自然とにじみ出る色気があったことを明かされています。
「おしん」より。
表情一つで心情を表す名演技
また、ドラマ上では、おしんの母・ふじ(泉ピン子さん)が死に、続け様に、おしんの親友で元奉公先の加賀屋の長女・加代(東てる美さん)が、夫が自殺したことで加賀屋が倒産し、女郎に身を落としたことを、おしんが伝え聞くシーンがあるのですが、
東さんは、親友の加代に会うため東京に向かい、加代の身を案じてさまよい歩くおしんを演じた、田中さんの演技を、
あの自然で、かつ憂いのある表情こそ、裕子ちゃんの凄さ。会話の中で見せる演技よりも、表情ひとつで心情を表すほうが難しいですから。
と、絶賛されており、その時の田中さんの表情が今でも忘れられないと、語っておられます。
(ちなみに、この回は、最高視聴率60%を記録しています)
天才的な演技力
そして、おしんの夫役を演じた並樹史朗さんは、そんな田中さんを、
役者には、役を引き寄せるタイプと、役に入るタイプがいるんですよ。でも、今思うと彼女はそのどちらでもない。
NHKスタジオでは本番5秒前に「ピリピリピリ」というベルが鳴るのですが、その瞬間スイッチが入って、いつもの裕子さんがおしんになってしまう。
天才ですよ。「引き寄せる」のでも「入る」のでもなく、一瞬で変わってしまう。名優で例えるならばロバート・デ・ニーロ的なんです。つまり、完全に役柄になりきって振る舞ってしまう。
と、語っており、
「おしん」がこれほどまでに大ヒットしたのは、田中さんが、ただ単に、忍耐強く真面目で働き者の女性を上手に演じたということではなく、「田中さん独特の魅力」というプラスアルファが視聴者をより強く惹きつけていたのかもしれません。
「田中裕子は昔「おしん」「天城越え」のほかCMでタコも?」に続く
「おしん」より。田中さん(左)と小林綾子さん(右)。