2020年に42年ぶりに4Kデジタルリマスター版で復活した「夜叉ヶ池」ですが、実は、1979年に公開された「夜叉ヶ池」は、当時、篠田正浩(しのだ まさひろ)さんが、松竹への罪滅ぼしで制作したものだったといいます。

「篠田正浩の「夜叉ヶ池」は巨匠マーティン・スコセッシも絶賛していた!」からの続き

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「夜叉ヶ池」は松竹への罪滅ぼしで制作していた

篠田さんは、1966年に「松竹」から独立した後は、ATG(独立プロの「日本アート・シアター・ギルド」)や東宝で映画を制作していたのですが、

その後、ある人から、

そろそろ戻ってきて、松竹で映画を作りなさい

と、言われ、

話を聞きに行ったところ、

坂東玉三郎さんの映画を撮りたいんですが、篠田さんは興味がありますか?

と、聞かれたそうで、

さらに話を聞くと、坂東玉三郎さんという素晴らしい歌舞伎役者(女形)を主役にして撮るだけではなく、大洪水のシーンもあると聞き、そんなことは独立プロでは考えられない企画だったことから、とても驚いたそうで、

(ちょうどその頃、泉鏡花ブームが起き、同時期、坂東玉三郎さんも泉鏡花の「天守物語」を上演するなど、歌舞伎以外の舞台にも挑戦し始めた頃だったそうです)

篠田さんは、

松竹が、大洪水のシーンを撮るために映画スタジオを改装して5tの水が使えるプールを作ってくれたり、玉三郎という人気歌舞伎役者を呼んできたりと、今思えば、映画会社にとっては、とてもじゃないけど簡単に決断できない内容だったと思います。

しかも家出をした篠田正浩まで呼び出して(笑)。私は、「家出した罪滅ぼしにやります」と引き受けたわけです

と、語っています。

歌舞伎役者・坂東玉三郎を絶賛

また、篠田さんは、坂東さんについて、

特に玉三郎さんが百合の役、(つまり)世話物の女房、リアルな日常の人妻の役を、女形という芸術で見事に演じた。もう一つの白雪姫は、歌舞伎における赤姫と呼ばれる女形の立役。

私は40年前、この2役を演じることが可能なのは、この世に坂東玉三郎しかいないと思いました。

と、絶賛しているのですが、

そんな坂東さんをキャストに、スタッフが特撮技術に心血を注ぎ、女形という特別な日本の伝統芸能が結実した「夜叉ヶ池」をこのまま蔵の中に埋もれさせてしまてはいけない、新しい観客に見てもらいたいとの思いから、坂東さんに協力を求めたところ、坂東さんも快諾してくれたそうで、今回、4Kデジタルリマスターとして復活することができたのだそうです。

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「夜叉ヶ池」とは(あらすじ)

それでは、ここで、「夜叉ヶ池」のあらすじを簡単にご紹介しましょう。

学者・山沢学円(山崎努さん)が、2年前に消息を絶った親友の萩原晃(加藤剛さん)を探して、日照りが続く村にやってくるのですが、そこには、その昔、竜神が封じ込められたという「夜叉ヶ池」という池がありました。

そこで、山沢学円が「夜叉ケ池」のほとりに行ってみたところ、そこには、百合(坂東さん)という美しい女が夫とともにひっそりと暮らしていたのですが、その夫こそが萩原晃でした。

そして、「夜叉ヶ池」には、大洪水を引き起こすほどの力を持った竜神・白雪姫(坂東さん2役)という主が住んでいたのですが、萩原晃は不思議な縁で、この竜神を閉じ込めるために1日に3度鐘をつく楼守となっていたのでした。

実は、竜神・白雪姫は、離れ離れの恋しい相手・三国岳の王子と一緒になることしか考えていなかったのですが、鐘がつかれている限りは身動きが取れず、村の暮らしはそのように守られていたのでした。

しかし、日照りが続くと、村人たちは、雨乞いのため、「夜叉ヶ池」の主である竜神に生贄(いけにえ)を差し出そうとし・・・というストーリーなのですが、

篠田さんは、この作品に込めた想いを、

泉鏡花はとても日本的な作家だと思われていますが、「夜叉ヶ池」も「天守物語」もギリシャ劇に似ていて、混沌とした世を描き、人間たちに天罰を下す神が出てくる。実は、こうしたことは現代でも起こり得るんです。

第2次世界大戦の原爆がそうです。一瞬にして多くの人間が命を落とすことが20世紀に起こりました。信じられないことです。

白雪姫が最後に巻き起こした大洪水も、彼女が人間の欲望に愛想を尽かしたから生まれたこと。私がこの映画でやりたかったのは、そうした“現実”を観客に見せていくことでした。

私が「夜叉ヶ池」で表現したかったのは、“未熟であることによってユーモアが生まれる”ということなんです。未熟さの中に、人間の本性が見えてくる。その一方で、リアルな部分はどこまでもしっかりとリアルに描く。

浮世絵の喜多川歌麿も多くの美人画を描いていますが、同時に、まるで本物のような自然の様子も描いている。そうした、日本人であれば誰もが感じ取れる美学が泉鏡花の作品にはあるんです。

と、語っています。

「篠田正浩監督のデビューからの監督映画を画像で!」に続く

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