1979年に公開された後は、2020年に42年ぶりに4Kデジタルリマスター版で復活するまで、一度だけテレビ朝日系「ゴールデンワイド劇場」で放送されただけで、ビデオやDVDにもされず、幻の作品と言われてきた、篠田正浩(しのだ まさひろ)さん制作の「夜叉ヶ池」ですが、実は、アメリカの巨匠マーティン・スコセッシ監督も絶賛していたといいます。

「篠田正浩の「夜叉ケ池」が42年ぶりに4Kデジタルリマスター版で復活!」からの続き

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巨匠マーティン・スコセッシ監督も「夜叉ヶ池」を絶賛

篠田さんが、1979年に歌舞伎役者(女形)の坂東玉三郎さんを主演に制作した映画「夜叉ヶ池」は、当時、アメリカでも公開され、篠田さんは、坂東さんとともにニューヨークのジャパンソサエティーのプレミア上映会に招待されたそうですが、

そこでマーティン・スコセッシ監督と知り合うと、スコセッシ監督は、試写のパーティーが終わった後、午前1時頃、ブロードウェイにあるマンションに招待してくれたそうです。

そして、後日には手紙もくれたそうで、そこには、

最初に、玉三郎さんの演技と、あなたが彼を(俳優としても、日本の伝統芸能の象徴としても)演出した素晴らしい手法に魅了されました。

玉三郎さんが繊細に演じた百合を凌ぐものがあるとしたら、彼が演じた歌舞伎にインスパイアされた素晴らしい夜叉ヶ池の白雪姫をおいて他にないでしょう。

事実、一度夜叉ヶ池の中に入れば、あなたの作品の真実の美しさが明らかになると私は確信しています。このアンダーワールドで繰り広げられるシーンでは、あなたは日本の文化と伝統の真髄を捉えています。

西洋人として私が完全に理解できているかわかりませんが、この映画は文化と歴史の感覚に溢れています。この映画は、あなたとあなたの(文化の)伝統への賛歌であり、現在も、そして未来においても生き続けていくことでしょう。

敬意を込めて。マーティン・スコセッシ

などと、書いてあったそうです。(一部抜粋)

ちなみに、篠田さんによると、スコセッシさんは篠田さんの作品「乾いた花」をアメリカで30回以上も観ており、

どんなコンテでこの映画を撮ったかというのは、篠田よりも俺のほうが詳しい

と、豪語していたとのことです(笑)

中学3年生の時に泉鏡花の「高野聖」を知り感動していた

これほどまでに、「夜叉ヶ池」を巨匠マーティン・スコセッシ監督に絶賛された篠田さんですが、実は、中学3年生の時に初めて「夜叉ヶ池」の原作者・泉鏡花の作品を知ったといいます。

ちょうどその頃、日本は、敗戦となり、軍国主義から開放された折で、マルクス・レーニン主義(共産主義)が時代の中心になりつつあったそうですが、

国語の先生が、粗末なガリ版刷りながら、明星派の詩人・泉鏡花の「高野聖」をテキストとして、「日本とは何か、日本語とは何か」を教えてくれたそうで、篠田さんはとても感動したのだそうです。

(※「高野聖(こうやひじり)」とは、泉鏡花の短編小説で、高野山の旅僧が旅の途中で道連れとなった若者に、自分がかつて体験した不思議な怪奇譚を聞かせる物語。幻想小説の名作と言われています。)

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坂東玉三郎も泉鏡花が好きだった

また、坂東玉三郎さんも、泉鏡花について、

おこがましい言い方になってしまいますけれど、鏡花先生の作品が私になぜ合ったかといえば、読んでいて、自分の言いたかったことが書いてあるような気がするんです。

だから覚えること、喋ることが苦痛じゃなくて、むしろ気持がいいんです

と、語っているほか、

「滝の白糸」「南地心中」「白鷺」「通夜物語」「辰己巷談」「稽古扇」「夜叉ヶ池」「天守物語」「日本橋」「山吹」「婦系図」と泉鏡花原作の舞台に多数出演し、泉鏡花愛は半端ないようで、

そんな二人がタッグを組んだことも、多くの人を魅了した要因だったのかもしれません。

(映画「夜叉ヶ池」は、坂東玉三郎さんのほか、加藤剛さん、山崎努さん、丹阿弥谷津子さんら豪華キャストが出演していることも見どころとなっています)

「篠田正浩は「夜叉ヶ池」を松竹への罪滅ぼしで制作していた!」に続く

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