「日劇」では、幾度となく恐ろしい出来事に遭遇し、朝の見回り中には、地下で、血だらけの男の人が死んでいるのを発見したこともあったという、森繁久彌(もりしげ ひさや)さんですが、その後、「日劇」では、トイレにこもった痴漢の退治に行かされたこともあったといいます。
「森繁久彌は若い頃「日劇」の地下で死体を発見していた!」からの続き
トイレにこもった痴漢退治に行かされる
「日劇」には、左の中二階に男女混合のトイレがあったそうですが、そこに痴漢がずっと入って出て来ない、という出来事があり、森繁さんは、上司の命令で調べに行かされたことがあったそうで、
この上の部屋では、華やかな舞台を踏むための稽古が毎日行われているというのに、なぜ、自分がトイレの痴漢退治をやらなければならないのかと、少しムッとしたそうですが、同時に、面白半分もあって、言われるがままに、お客さんが入る前に、そのトイレに点検に行ったそうです。
痴漢は男子トイレと女子トイレの境の鉄板にドリルで穴を開けていた
すると、男子トイレと女子トイレの境にある厚さ3ミリの鉄板には、ドリルで開けた穴があったそうで、
(おまけに、額を押し付けて女子トイレをのぞいていたようで、その穴の周りには、おでこの油が黒くシミになって残っていたそうです)
森繁さんは、思わず、「一念巌(いわ)をも通す」 ということわざを思い出し、見たい一心でこんなことまでした痴漢に、
この根性でやらねば「芸」も身につけられぬ
と、感心したそうです。
痴漢撃退のため上司から恐ろしい命令をされる
そこで、森繁さんは、上司にこのことを報告しつつ、「えらいもんですねえ」と言ったそうですが、
上司からは、
馬鹿!何を感心しているんだ。そんなことより、いいか、そこへひそむ奴は映画の終るちょっと前に入るそうだから、お前はその前に、女のほうに入っておれ
と、命じられたそうで、
森繁さんが、
ハイ、 しかし、そこへ入っていてどうするんですか?
と、聞くと、
上司は、
のぞいたら、釘で眼をつくんだ
と、恐ろしいことを言ったそうで、
森繁さんが、
それは僕にはとてもできません
と、断ると、
上司は、
それじゃ、あつい灰をもって行って、その眼にかけろ
と、さらに、恐ろしいことを言ったのだそうです。
(森繁さんには、上司の羨望(せんぼう)によるヒガミもあるように感じたそうです(笑))
痴漢を捕まえるも大学の教授と判明し哀れでこっそり釈放
そんな上司の無茶な命令に、森繁さんは、45円の月給取りはこんなことまでさせられるのかと、悔しく、
そんな非道な仕返しをするより、コンクリートでも張ればいいでしょう
と、言い返したそうですが、
聞き入れてもらえず、結局は、森繁さんが、この痴漢を見張ることに。
そして、ほどなく、森繁さんは、この痴漢を捕まえることができたそうですが・・・
なんと、痴漢は、某大学の教授だったそうで、「どうかゆるしてくれ」と許しを請うてきたことから、森繁さんは、あまりにも、この教授が惨めで哀れだったため、お説教した後に、こっそりと釈放してあげたのだそうです。
「森繁久彌は若い頃「東宝新劇団」から「東宝歌舞伎」に左遷されていた!」に続く