デヴィッド・ボウイさん、ビートたけしさん、坂本龍一さんという、異色のキャストが大きな話題となってヒットにつながった、大島渚(おおしま なぎさ)さんの映画「戦場のメリークリスマス」ですが、映画史で語り継がれているとても有名なシーンは、実は、機材のトラブルで偶然撮影されたものだったといいます。
「大島渚の「戦場のメリークリスマス」には三上博史も端役で出演していた!」からの続き
「戦場のメリークリスマス」の名シーンは機材トラブルで偶然撮影されたものだった
映画「戦場のメリークリスマス」では、物語の終盤、反抗的な俘虜長を処刑しようと日本刀を抜いたヨノイ大尉(坂本龍一さん)に、イギリス人俘虜のセリアズ(デヴィッド・ボウイさん)が近づいて頬にキスをするという有名なシーンがあり、このシーン、画面がわずかに揺れ動いているのですが、これは、意図的に行った演出ではなく、撮影機材の故障により偶然生じたものだったといいます。
というのも、もともと、このシーンは、3つのアングルから撮影されたものだったそうですが、デヴィッド・ボウイさんの背中越しに坂本龍一さんの顔がアップになるというカットのみを、後に現像しフィルムを試写すると、この瞬間だけ、なぜかフィルムの回転に異常が起き、1秒間24コマの映像のうち、8コマしか使えなかったのだそうです。
「戦場のメリークリスマス」より。ヨノイ大尉(坂本龍一さん)の頬にキスするセリアズ(デヴィッド・ボウイさん)。
(このシーンを撮影した撮影監督の成島さんは、撮影中に体調を崩し、帰国後は入院しているのですが、精神的にも肉体的にも限界に近い中で、渾身の力を振り絞って撮影していたそうで、手元が狂ってしまったのかもしれません)
「戦場のメリークリスマス」の名シーンは奇跡だった
そこで、活かせるフィルムのコマを伸ばして使ったところ、あの、微妙に揺れ動く、有名な頬へのキスシーンが誕生したそうで、その後、撮り直したそうですが、画面が微妙に動いている方が、セリアズとヨノイの心理描写を的確に表現できていると考え、これを採用したそうで、
大島さんは、後に、
奇跡だよ
と、周囲に語っていたそうです。
唐十郎原作の「佐川君からの手紙」の映画化を企画するも・・・
こうして、「戦場のメリークリスマス」をヒットさせ、国内外で、名監督としての地位を不動のものにした大島さんは、
次回作の検討を始め、唐十郎さん原作の「佐川君からの手紙」の映画化を企画したそうですが・・・
(これは、1981年、フランスのパリに留学中だった日本人留学生・佐川一政が、若いオランダ人女性を殺害し、その肉を食べるという実際にあった事件から着想を得て書かれた作品だったそうです)
映画「佐川君からの手紙」は企画中に脚本の寺山修司が急死していた
寺山修司さんに脚本を依頼することに決めた大島さんは(2人はワイドショー「こんにちは2時」で共演していました)、ワイドショー「こんにちは2時」の本番1分前に、大島さんの隣の席に座ろうとした寺山さんに、「佐川君からの手紙」のシナリオを書いてくれと話したそうで、
大島さんによると、
寺山さん:唐がイヤがるんじゃないか
大島さん:とんでもない。大喜びだった
寺山さん:そうか、じゃ、喜んで
(「現代詩手帖」(83年6月号))
などのやりとりがあったそうですが、
それからほどなくして、寺山さんが「肝硬変」で入院。
大島さんは、寺山さんのお見舞いに行くと、カンヌへ行く前に一度「佐川君からの手紙」の脚本について話し合いたいと言ったそうですが、それから約2週間が過ぎた1983年5月4日、寺山さんは47歳の若さで他界してしまったのでした。
映画「佐川君からの手紙」は脚本の寺山修司が急死しお流れとなっていた
ちなみに、寺山さんは、「佐川君からの手紙」について、構想を練っていたそうで、寺山さんの前妻・九條今日子さんは、「映画秘宝」(2013年6月号)のインタビューで、
(「佐川君からの手紙」について)書く寸前だったんだけどね。食べられちゃう主役の女性を誰にするか、唐十郎の案があったり、色々案があったんだけど、“それはないだろう”っていうような女優さんを唐は推薦してきたわけ。
みんなも寺山も“う~ん?”という感じになって。でも、寺山はなんでも面白がる人だから、元気でいれば絶対にやっていたと思うんですよ
と、証言しています。
また、大島さんは、「シナリオ」(83年10月号)のインタビューで、
寺山がポックリ死んじゃったからね。今は喪に服してる。心境的に次においそれと他のライターをもってくる気になれないんだな。
そうすると、唐さんが書くか、俺が書くかということになるんだけど、最初三人でやろうと思った気持の弾みからいうと、ちょっと弾まないんだね。結局、映画というのは、その気持の弾みというのが大事だからね
と、語っています。
(その後、大島さんは、大友克洋さん原作の「童夢」など、大作の企画がいくつか噂されるも、どれも実現することはありませんでした)
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