1953年、映画「十代の性典」の出演により「性典女優」と酷評されるも、同年、「祇園囃子」でヒロインに起用されると、入社2年目にして、たちまち「大映」の看板女優となった、若尾文子(わかお あやこ)さん。今回は、そんな若尾さんの代表作、映画「刺青」にまつわる話を中心にご紹介します。

「若尾文子の若い頃が美人過ぎる!性典女優の汚名とは?」からの続き

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「刺青」で悪女

若尾さんは、1966年、谷崎潤一郎の同名小説を原作とする映画「刺青(いれずみ)」で、悪党に騙されて背中一面に「女郎蜘蛛(じょろうぐも)」の刺青を彫られたことをきっかけに、心の奥底で眠っていた悪女が目覚め、男たちを惑わせていく、ヒロインのお艶役を演じられているのですが、

若尾さんの白く透き通るような肌に彫られた刺青は、得も言えぬ妖艶さを醸し出し、若尾さんの美を最大限にまで引き出した傑作として、現在も語り継がれています。


「刺青」より。若尾さんと佐藤慶さん。

日本を代表する美人女優に

そんな若尾さんは、主に、川島雄三監督、増村保造監督、溝口健二監督の作品を中心に数多く出演され、1960年代後半には、各映画賞を総なめにするなど、「大映」の看板女優として数多くの名作を残し、日本を代表する美人女優としての地位を確立されているのですが、

若尾さんは、後に、

そこ(映画界)は本当に厳しい場所。「私、このまま生きてていいのかな」って思わずにはいられない日々でした。撮影所にいるのは職人ばかりで、特に名匠といわれるような監督は個性も強く、職人の極みでした。

撮影所以外の姿は想像もできなくて、直接話をすることもはばかられる絶対の存在でしたね。そんな環境の中で、本当に極限まで精神的に追い詰められるんです。問題を突き付けられ、自分の全てを否定されて。それでも「では、どうしたらいいんだろう?」って必死にもがくわけです。

今の若い人はそこで相手が悪いと考えてプツリと切れてしまう。でも、私たちの時代はそうではなかったんです。これはきっと幸せなことだったのね。そして今度は、自分で自分を追い詰めてどうしようもない所まで行く。すると人間って不思議なもので、何とかなってしまうんです。

そういう思いは、役者をしていて何度も経験しましたよ。ある所まで行くと、パァっと道筋が見えてきてそこから先はすっと出来てしまう。でもそれは必死に、もうだめだと思っても、それでも前に向かって進んだ先に見えてくるものだと思うんです。

と、語っておられます。

70年代はテレビドラマ・舞台で活動

そして、日本映画産業全体が斜陽化してきた1968年には、「クラクラ日記」でテレビドラマデビューを果たされると(石井ふく子プロデューサーにより)、


「クラクラ日記」より。若尾さんと藤岡琢也さん。

1971年、「大映」倒産後は、完全に映画を離れてテレビドラマに活動の場を移され、

1988年には、NHK大河ドラマ「武田信玄」で信玄の母親役としてナレーションを担当されると、

今宵はここまでに致しとうござりまする

という、若尾さんのセリフがこの年の「流行語大賞」を受賞するなど、再び、注目を集められています。

また、舞台も、1970年に、川端康成の同名小説を原作とする舞台「雪国」で初舞台を踏まれると、以降、1994年「花のひと 深川亭」、1998年「花の情」、2004年「ウェストサイドワルツ」ほか、数多くの舞台にも出演されています。

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テディベアの着物をデザイン

ところで、若尾さんは、2012年、六本木ヒルズ森タワーで開催された「TEDDY BEAR -天空の森 展-」のプレス向け内覧会及び記者発表会に参加されると、

日本女性を代表する著名人として、チャリティオークション用にデザインしたという着物姿のテディベアを披露されています。


若尾さんがデザインした着物を着たテディベアとともに

というのも、1966年に出演された「刺青」でのお艶役が大変気に入っていたとの理由から、その時の衣装をモチーフにデザインされたということですが・・・

若尾さんは、出来上がった着物を着たテディベアを持って、壇上でまじまじと見入られると、その後、

ちょっとわたしがイメージしたのとは違う仕上がりになっている

(デザインの一つ一つにも相当気合を入れて挑んでいたようで)裾が長くて、重ね着したような着物をイメージしていたんだけど

と、少し残念そうな表情を見せたそうで、

さらには、

この次、皆さんに披露するときはもっと華やかなものになっていると思います

と、作り直しを含ませるコメントをされるなど、和やかな会場の中で、たった一人、真剣な表情で、自身の作品にこだわりを見せていたとのことで、それほど、「刺青」のお艶役に思い入れがあったことが伺えました。

「若尾文子の代表作ほか出演ドラマ映画を画像で!」に続く

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