結婚後、自身の体験である嫁姑問題を描いた辛口ホームコメディ「となりの芝生」が人気を博すと、以降、「おしん」(1983)、「春日局」(1989)、「渡る世間は鬼ばかりシリーズ」(1990-2015)などが立て続けにヒットとなり、誰もが知る人気脚本家となった、橋田壽賀子(はしだ すがこ)さんですが、今回は、1994年、NHK朝の連続テレビ小説「春よ、来い」でヒロインの安田成美さんが突然降板するという、朝ドラ史上に残る事件についてご紹介します。
「橋田壽賀子は昔サラリーマンと結婚し嫁姑問題を経験していた!」からの続き
安田成美が突然、「春よ来い」を降板
橋田さんは、1994年10月~1995年9月、自伝的作品である、NHK朝の連続テレビ小説「春よ、来い」で脚本を担当されているのですが、
この作品で、1年間ヒロインを務める予定になっていた安田成美さんが、物語が佳境を迎えた1995年2月7日、突然、肉体的、精神的な疲労を理由に降板。
「春よ、来い」のチーフプロデューサーが記者会見を開き、安田さんが1994年暮れ頃から体の不調を訴え、収録が1995年9月上旬までの予定のため、完走は無理と判断し、降板となったと発表したのです。
「春よ、来い」でヒロインを演じる安田成美さん。
橋田壽賀子が会見で安田成美への不満を爆発させる
すると、その後、安田さんの降板理由について、
台本の仕上がりが遅く、長ゼリフのため負担を感じていた
との噂が流れたのですが、
それから3日後の2月10日には、今度は橋田さんが会見を開き、
安田さんの降板理由は、私の本を気に入らなかったことに尽きると思います。それは私の責任です。
と、深々と頭を下げられるも、噂されていた脚本の遅れはきっぱりと否定し、
脚本家に文句を言う俳優がいるのにびっくりした。 突然、犬に噛まれたみたいな気持ち。
と、安田さんへの不満を爆発されたのでした。
「春よ、来い」は不評だった
ちなみに、「春よ、来い」は、NHK放送70周年の記念ドラマとして、大々的に番宣が行われ、通常半年の放送が1年間に延長され、そのうえ、「おしん」で高視聴率を叩き出した橋田さんの半生を元に書き下ろした自伝的作品だったことから、橋田さんの強い希望で、安田さんがヒロインに選ばれ、話題性も抜群だったのですが、
いざ、放送が開始すると、当時、NHKの朝ドラでは、初回視聴率30%が当たり前だった中、
話が面白くない
安田のおさげ髪が不気味
セリフ回しが下手
など、不評で、視聴率は25.8%と低迷。
さらには、橋田さんが前述の会見で安田さんを非難したことから、安田さんの降板は、安田さんが責任を取らされたのではとの噂も流れたのでした。
安田成美が降板の真相を告白
そして、1ヶ月後の3月23日(第2部スタートの直前)には、ついに、それまで沈黙を守っていた安田さんが、
「春よ、来い」降板劇の真相を全て話します。
との衝撃的なタイトルで、週刊誌の対談に登場すると、
NHKのチーフPの口の上手さにだまされて出演したが、演じるうちに話のつじつまが合わなくなった脚本に困り果て、改善してもらおうとチーフPにお願いした。
だが、何ひとつ変わらず、散々待たされ、その揚げ句、とてもすてきな脚本と開き直られ、見切りをつけた。
と、降板理由を明かされたのでした。
(その後、第2部のヒロインには中田喜子さんが起用されたのですが、結局、平均視聴率は歴代ワースト2位の24.7%と、改善することはありませんでした。)
安田成美の本当の降板理由とは?
ただ、安田さんの本当の降板理由は別のところにあるというのです。
当時を知る某テレビ関係者が、
安田は橋田の脚本に難色を示すシーンが多かったそうです。この作品は第二次大戦中の話が大半を占めますが、主人公・春希やその家族の境遇に安田が共感できず、撮影が止まることもあったといいます
と、明かしているほか、
ワイドショー「おはよう!ナイスデイ」にレギュラー出演されていた、評論家の塩田丸男さんは、安田さんが降板したのが、ドラマの中で、橋田さんの父親が戦前、朝鮮において朝鮮人を雇って事業を行っていたというシーンの後だったことや、このドラマの戦争の描き方が、日本側を美化した内容だったことから、
安田さんは在日だから、植民地の朝鮮で荒稼ぎする日本人の娘を演じたい訳がない。安田さんが在日の親戚の人達に反感をもたれた。
と、コメントしているのです。
(ただ、塩田さんは、安田さんの出自に言及したことを問題視され、その後、番組を降板させられています)
ちなみに、安田さんは、以降、長らくNHKドラマから遠ざかるも、わだかまりも消えたのか、2010年には、15年ぶりにNHK連続テレビ小説「てっぱん」に出演されているのですが、さすがに、橋田さんの作品で、再び、安田さんを見ることはもうなさそうです。
「橋田壽賀子はキスされた江頭2:50を干していた?その真相とは?」に続く