作品の関与に関係なく、「藤子不二雄」として作品を発表してこられた、藤本弘(ふじもと ひろし)さんと安孫子素雄(あびこ もとお)さんですが、1987年にコンビを解消してからは、藤本さんは「藤子・F・不二雄」(もともとは「藤子不二雄F」)、安孫子さんは「藤子不二雄A」を名乗るようになります。そこで今回は、お二人の作風や性格の違いほか、それぞれの執筆作品をご紹介します。

「藤子不二雄のコンビ解消理由はドラえもんだった?」からの続き

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「藤子不二雄A」と「藤子・F・不二雄」の作風の違いは性格の違い

もともとは、藤本さんも我孫子さんも、お二人とも児童漫画を描いておられたのですが、

安孫子さんは、

僕は年を取り、お酒を呑んだり、ゴルフをしたり、女の子とお付き合いしたり(笑)するうちに、だんだん汚れてくるんですよ。

児童漫画のような純粋なものが描けなくなってきてね。技術的に描けても、身が入ってないと読者には分かるんです。それでだんだん路線が変わっていったんです。

と、1960年代、学生運動が盛んだった頃、大学生が紛争の最中に漫画を読んでいるとの週刊誌の記事を見て、漫画が少年から青年の世代に広がっていることを知ると、

1968年、「黒ィせぇるすまん」(後の「笑ゥせぇるすまん」)を描かれ、このことがきっかけとなり、大人向けの漫画を描くようになられます。


藤子不二雄Aのブラックユーモア 1 黒イせぇるすまん (ビッグコミックススペシャル)

一方、藤本さんはというと、担当者との会話でさえも、避けるようなところがあったほど内気だったそうで、

安孫子さんによると、

自分は社交性があるため、酒やゴルフを覚えたが、藤本君はそのようなことは一切しなかった。結果的に藤本君は少年のような心を持ち続けるきっかけとなり、逆に自分はこども心が薄れ、作風に差が出た

と、安孫子さんが、青年向け漫画(ブラックユーモア)を描くようになっても、藤本さんは、少年の時と変わらない豊かな想像力で、児童漫画を描き続けられており、

藤本さんは、その少年のような純粋さから、「白い藤子不二雄」、安孫子さんは、「黒い藤子不二雄」と呼ばれるようになっていったのでした。

ちなみに、安孫子さんは、

藤本君は繊細で優しい線で、日常的な世界からポンと四次元の世界を描く。これが彼の大きな特徴でした。

漫画家というのは、いくら努力して描いても読者に喜んでもらえなければなんにもならない。だから、多かれ少なかれ読者を意識して描くものですが、彼にはそれがなかった。自分にとって描きたいもの、楽しいものを描く。それが結果として子供たちに受け入れられたんです。

そういう意味でボクは彼を天才だと思います。彼はイメージの中のファンタジーの世界を自由に描いていく。読者である子供たちは、のび太と一緒に“どこでもドア”を通って、その四次元世界にドップリひたることができるのです。

と、藤本さんの想像力や純真さを誰よりも理解されており、コンビ解消後も、やや社交性に欠ける藤本さんを亡くなるまでフォローし続けられると、藤本さんも、そんな我孫子さんを生涯信頼し続けられ、二人の友情はずっと続いたのでした。

藤本弘(藤子・F・不二雄)の作品

それでは、ここで、藤本弘(藤子・F・不二雄)さんの作品をご紹介します。

未発表作品

1948年「RING」※肉筆同人誌
1950年「少太陽」※肉筆同人誌
1952年「ベンハー」


「少太陽」

投稿作品

1950年「種まき奇談」※藤本弘名義
     「時の記念日」※藤本弘名義
     「ダンゴ仙人とたなばた」(4コマ)※藤本弘名義
     「はかられたか!」※藤本弘名義
     「こんな子供に誰がした」(4コマ)※藤本弘名義
     「ああ無情」(4コマ)※藤本弘名義
     「花咲爺さんの嘆き」(4コマ)※藤本弘名義
     「幼児の心理」(4コマ)※藤本弘名義
     「りんきおうへん」(4コマ)※藤本弘名義
     「スピード興業」(4コマ)※藤本弘名義
     「諸行無常」(4コマ)※藤本弘名義
     「コロコロマダム」(3コマ)※藤本弘名義
     「奇禍」(4コマ)※藤本弘名義
     「サンドウィッチマン」(4コマ)※藤本弘名義
     「天狗昇トビキリ」(4コマ)※手塚不二雄名義
     「大奇術」※手塚不二雄名義
     「ギョッ」(4コマ)※手塚不二雄名義
     「遠近法利己すぎらア」(4コマ)※藤本弘名義
     「公正取引」(4コマ)※手塚不二雄名義
1952年「遺作」 (4コマ)※足塚不二雄名義

ギャグ、コメディ

1960年「てぶくろてっちゃん」
1962年「すすめロボケット」
1964年「オバケのQ太郎」
1966年「パーマン」
1967年「チンタラ神ちゃん」
1968年「21エモン」
     「ウメ星デンカ」
     「ベラボー」


21エモン (1) (てんとう虫コミックス)

1969年「ドラえもん」
1970年「ポコニャン」
1971年「ドビンソン漂流記」
     「仙べえ」
1973年「ジャングル黒べえ」
     「パジャママン」


ジャングル黒べえ (中公コミックス 藤子不二雄ランド)

1974年「キテレツ大百科」
     「ぞうくんとりすちゃん」(絵本)
     「みきおとミキオ」
     「モッコロくん」
     「バケルくん」
1975年「4じげんぼうPポコ」
1976年「Uボー」
     「バウバウ大臣」
     「きゃぷてんボン」
1977年「エスパー魔美」
1983年「宙ポコ」
1984年「宙犬トッピ」
1985年「チンプイ」


エスパー魔美 (1) (てんとう虫コミックス)

劇画、SF

1953年「四万年漂流」
     「UTOPIA 最後の世界大戦」
1959年「海の王子」
1969年「モジャ公」
1973年「劇画・オバQ」
1977年「中年スーパーマン左江内氏」
1978~1979年、1980~1983年、1984~1986年「T・Pぼん(タイムパトロールぼん)」
1979年「ミラ・クル・1」
1980年「大長編ドラえもん」
1991年「未来の想い出」


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SF短編

「藤子・F・不二雄 SF全短篇」
1987年「カンビュセスの籤」
     「みどりの守り神」
1988年「征地球論」

「少年SF短篇」
1989年「宇宙人」
     「創世日記」
     「マイロボット」
     「おれ、夕子」
     「恋人製造法」
     「アン子大いに怒る」

「異色SF短篇」
1990年「夢カメラ」
     「あのバカは荒野をめざす」
     「一千年後の再会」


SF・異色短編 コミック 1-4巻セット (藤子・F・不二雄大全集 第3期)

「藤子・F・不二雄SF短篇集」
1994年「創世日記」
     「メフィスト惨歌」
     「超兵器ガ壱號」
     「ぼくは神様」

「藤子・F・不二雄[異色短編集]」
1995年「ミノタウロスの皿」
     「気楽に殺ろうよ」
     「箱舟はいっぱい」
     「パラレル同窓会」

「藤子・F・不二雄少年SF短編集」
1996年「未来ドロボウ」
     「絶滅の島」

「藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版」
2000年「ミノタウロスの皿」
     「定年退食」
     「俺と俺と俺」
     「未来ドロボウ」
     「メフィスト惨歌」
2001年「パラレル同窓会」
     「タイムカメラ」
     「鉄人をひろったよ」


藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿

ほか、数多く発表されています。

安孫子素雄(藤子不二雄A)の作品

続いて、安孫子素雄(藤子不二雄A)さんの作品をご紹介します。

代表作

1964年「忍者ハットリくん」
1968年「怪物くん」
     「笑ゥせぇるすまん」※もともとは「黒ィせえるすまん」
1970年「まんが道」
1972年「魔太郎がくる!!」
1978年「少年時代」


忍者ハットリくん(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

「藤子不二雄Aブラックユーモア短編」

短編

1968年「小池さんの奇妙な生活」
     「黒ィせぇるすまん」
     「マンガ株式会社」

1969年「ひっとらぁ伯父サン」
     「不思議町怪奇通り」
     「コレク太の変コレクション」
     「B・Jブルース」
     「野蛮人」
     「世界ザンコク旅行」
     「カー吉の変自動車」
     「モテルの変ガールフレンド」
     「タベ代の変料理」


「小池さんの奇妙な生活」

1970年「社長幼稚園」
     「パラダイス」
     「北京填鴨式(ペキンダックしき)」
     「マグリットの石」
     「水中花」
     「恐喝有限会社(ユスリゆうげんがいしゃ)」
     「魔雀」
     「ブレーキふまずにアクセルふんじゃった」
     「マカオの男」
     「ぶきみな5週間シリーズ」
       「毛のはえた楽器」
       「爪のある杖」
       「串のはいった鞭」
       「鎖のついた武器」
       「目のない舞姫」
       「赤か黒か」


藤子不二雄Aブラックユーモア短篇集 (1) (中公文庫―コミック版)

1971年「白い童話シリーズ」
       「ひっとらぁ伯父サンの情熱的な日々」
       「わが分裂の花咲ける時」
       「万年青」
       「明日は日曜日そしてまた明後日も……」
       「ポルノを買いに-MIDNIGHT SAMURAI-」
       「禁じられた遊び」
     「諸芸百般道けわし」
     「恋文(らぶれたあ)」
     「ヒゲ男」
     「赤紙きたる」
     「災難厄郎」
     「赤毛布漂流記シリーズ」
       「マンハッタン・ブルース」
       「スターダスト・ラプソディ」
       「Q・E(クイーン・エリザベス)マーチ」
     「モンキー大旅行」

1972年「カタリ・カタリ」
     「ダル男の物憂い日々」
     「田園交響楽」
     「無邪気な賭博師」
     「内気な色事師」
     「不器用な理髪師」
     「台北挽歌」
     「シンジュク村大虐殺」
     「鳥人くーん」
     「なにもしない課」
     「五百億円の鼡」
     「狂暴都市」
     「変身科へどうぞ」

1973年「盲滅法の男」(「一本道の男」に改題)
     「転べばベッタリ糞の上…」(「転べばベッタリ◎の上…」に改題)
     「不意打ち」(「暗闇から石」に改題)
     「ハレムの優しい王様」
1974年「オカルト勘平」
1976年「アフリカの夜」
     「アカプルコの夜」

1977年「大変愛」
1979年「なんにもしない課」
2003年「わが名はモグロ…喪黒福造」


笑ゥせぇるすまんわが名は喪黒福造新装版 (My First Big SPECIAL)

連載

1969年「黒ィせぇるすまん」
1970年「夢魔子」
1973年「戯れ男」
     「喝揚丸ユスリ商会」
     「番外社員」
     「添乗さん」

1975年「ゲゲゲのゲー」
     「オレ係長補佐」

1981年「魔太郎が翔ぶ!」
1989年「笑ゥせぇるすまん」
1996年「帰ッテキタせぇるすまん」
1997年「喪黒福次郎の仕事」
2001年「踊ルせぇるすまん」


喪黒福次郎の仕事 (中公コミックスーリ)

ギャグ

1954年「どんぐりくん」
1958年「どんぐり名探偵」
     「わが名はXくん」
1964年「フータくん(フータくんNOW!)」
     「わかとの」
1969年「狂人軍」
1969年「仮面太郎」
1969年「ビリ犬」
1971年「マボロシ変太夫」
     「無名くん」
1972年「かっぱのカッポ」
1973年「添乗さん」
     「さすらいくん」
1974年「旦ベエ」
1975年「オヤジ坊太郎」
     「ゲゲゲのゲー」
     「ミス・ドラキュラ」
     「オレ係長補佐」
1984年「ウルトラB」
1989年「パラソルヘンべえ」
1991年「プリンスデモキン」
1998年「ホアー!! 小池さん」


ホアー!!小池さん (1) (King series―ゴルフアルバコミック)

ブラック

1969年「黒ベエ」
1970年「夢魔子」
1973年「喝揚丸ユスリ商会」
     「戯れ男」
     「番外社員」
1976年「ブラック商会変奇郎」
1991年「憂夢」
1994年「切人がきた!!」


黒ベエ 1 (藤子不二雄Aランド Vol. 8)

劇画

1959年「怪人二十面相」
1960年「シルバー・クロス」
     「コルト45」
1962年「くまんばち作戦」
1963年「シスコン王子」
     「きえる快速車」
1964年「スリーZメン」
     「忍法十番勝負・二番勝負」
1971年「劇画 毛沢東伝」
1973年「愛ぬすびと」
     「番外社員」
1974年「戯れ師」
     「愛たずねびと」
1983年「夢トンネル」
1988年「プロジェクトPOS-ある事業部の挑戦」
     「タカモリが走る」
1989年、1990年、1995~2013年「愛…しりそめし頃に… 満賀道雄の青春」
1998年「用心棒」黒澤明映画の漫画化)

SF

1956年「ロケットくん」


宇宙少年団ロケットくん 上 (復刻名作漫画シリーズ)

コミックエッセイ

1978年「パーマンの日々」
1989年「藤子不二雄AのパーマンGOLF LAND」
1991年「PARMANの日々」
2007年「PARマンの情熱的な日々」※2015年12月号をもって休載

ほか、数多く発表されています。

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藤子不二雄(合作)の作品

最後に、数少ない、お二人の合作をご紹介します。

1951年「天使の玉ちゃん」※デビュー作
1953年「UTOPIA 最後の世界大戦」※足塚不二雄名義
1954年「ある日本人留学生からのローマ便り」
1959年「海の王子」


藤子・F・不二雄大全集 UTOPIA 最後の世界大戦/天使の玉ちゃん

1961年「星の子ガン」
1964年「オバケのQ太郎」
1965年「名犬タンタン」
1967年「チンタラ神ちゃん」
1971年「仙べえ」


オバケのQ太郎 (てんとう虫コミックス) コミック 全12巻完結セット (てんとう虫コロコロコミックス)

さて、いかがでしたでしょうか。

藤子不二雄(藤本弘さんと安孫子素雄さん)の、

  • 「藤子不二雄A」と「藤子・F・不二雄」の作風の違いは性格の違い
  • 藤本弘(藤子・F・不二雄)の作品
  • 安孫子素雄(藤子不二雄A)の作品
  • 藤子不二雄(合作)の作品

について、まとめてみました。

実に、36年という長きに渡り、コンビとしての活動を続けてこられ(2015年に「キン肉マン」等の作者「ゆでたまご」が更新するまで日本漫画最長)、

コンビ解消後も、少年時代と変わらず、これほど強い絆で結ばれた友がいるなんて、本当に素晴らしいことですが、

大人の事情で、最後までコンビを続けることができず、藤本さんが亡くなって、中央公論社発行の「藤子不二雄ランド」が絶版になった後は、20年近く「オバケのQ太郎」等のお二人の合作が購入できない状態が続き、

2009年、ようやく「藤子・F・不二雄大全集」が刊行されて多くの合作が復刊されるようになるも、「忍者ハットリくん+パーマン」など、いまだに復刊の見込みが立たない作品があるのは残念でなりません。

著作権等の問題が起こらないような方法が、一日も早く考案されることを願うばかりです。

「藤子不二雄aの魔太郎がエグい!黒ィせぇるすまん!ブラック商会も!」に続く

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