1964年の「オバケのQ太郎」が大ヒットし、「ギャグ漫画の藤子不二雄」と呼ばれるようになった、「藤子不二雄」のお二人ですが、実は、「オバケのQ太郎」以外のほぼ全ての作品は、合作ではなく、藤本弘(後の藤子・F・不二雄)さんと安孫子素雄(後の藤子不二雄A)さんがそれぞれ単独で執筆したものを、「藤子不二雄」名義で発表されていました。そこで、今回は、「黒い藤子不二雄」と呼ばれた、我孫子さんの執筆作品について調べてみました。

「藤子不二雄aとfの違いは性格の違い?未発表作品ほかSF短編エッセイも!」からの続き

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「黒ィせぇるすまん」(後の「笑ゥせぇるすまん」)

藤子不二雄のお二人は、1968年、創刊したばかりの青年誌「ビッグコミック」に、「黒ィせぇるすまん」(後の「笑ゥせぇるすまん」)を発表しているのですが(翌年の1969~1971年「漫画サンデー」で連載)、この作品は、我孫子さんが執筆したもの。


藤子不二雄Aのブラックユーモア 1 黒イせぇるすまん (ビッグコミックススペシャル)

この作品は、謎のセールスマン喪黒福造(もぐろ ふくぞう)(当初は、もこく ふくぞう)が、一旦は客の願望を叶えるも、客が約束を破ったり忠告を無視するとひどい目に遭わせる、という一話完結型のオムニバス形式なのですが、

当時は、それほど注目を集めていなかったものの、1989年に、テレビ番組「ギミア・ぶれいく」でアニメ化されると、(この時「笑ゥせぇるすまん」に改題)

黒いスーツを着て、黒い帽子をかぶり、目はタレ目で常に薄気味悪い笑みを浮かべている、謎の男・喪黒福造が、不思議なグッズを紹介して、一旦は客を助けるも、客がそのグッズに翻弄される姿や、「オーッホッホッホッホッ」と高らかに笑う声、客に対して指さす「ドーン!!!」というポーズが視聴者に大きなインパクトを与えて、大ヒットしました。


「ギミア・ぶれいく」より。(左から)我孫子さん、ビートたけしさん、大橋巨泉さん、関口宏さん。

ちなみに、安孫子さんは、喪黒福造というキャラクターが誕生した経緯について、

僕は恥ずかしがり屋で気弱な少年だった。いじめもありました。誰かの助けがほしいと思っていた。(喪黒福造の客が約束を破ったり、忠告を無視するとひどい目に遭ってしまうが)助けに来た人がいても、1回だけ力を借りるのはいいけど、2回目も借りると、とんでもないことになるかもしれない。そんな想像を膨らませたんです。

と、おっしゃっており、ある意味「喪黒福造」は、「ドラえもん」の超ブラック版とも言えるかもしれませんね。

喪黒福造のモデルは大橋巨泉

ちなみに、ひと目見たら忘れられないほどインパクトの強い「喪黒福造」

実は、モデルは、大橋巨泉さんだったそうで、安孫子さんは、

(大橋)巨泉氏と友達でね。ゴルフをやったり、飲んでいたりした。あの顔は使えるなあ……と思っていて、使わせてもらいました。

と、明かされています♪


大橋巨泉さん(左)と喪黒福造(右)

また、喪黒福造が客に対して指を差し、「ドーン!!!」とやるのも、小学校の同級生のマージャン友達が、上がる時にいつも指を差して「ドーン!」 とやっていたそうで、我孫子さんはその度に息が止まりそうになっていたことから、「ネタになる」と採用されたのだそうです♪

「魔太郎がくる!!」

そして、1972年に発表された「魔太郎がくる!!」も、我孫子さん執筆の作品です。

この作品は、オカルトに興味を持つ、見た目も性格もパッとしない、典型的なイジメられっ子、浦見魔太郎が、いじめっ子を、超能力「うらみ念法」を使って、徹底的に復讐するという、超ブラックなストーリーで、

魔太郎は、黒い手帳に恨みを書き綴り、その恨みが頂点に達すると、

こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か(この恨み、晴らさで置くべきか=この恨みを晴らさず放置していいのか)

と、夜な夜な復讐して回るのですが、その手口が、

いじめっ子をパワーショベルで引き裂いた上に遺体を生コンクリートで埋める

恐喝してきたチンピラをゴミ袋に詰めて執拗にバットで殴り、そのまま遺体をゴミに出す

過剰なしごきをしたコーチを水中で虎バサミに掛けた挙句に溺死させる

と、あまりにも凄惨。


魔太郎がくる!! 全13巻 完結セット(秋田書店) [マーケットプレイスセット]

そのせいか、その後、少年事件が「凶悪化」「深刻化」したそうで、

当初は、連載とほぼ同じものを収録したものが単行本化されていたのですが、後に発売された「藤子不二雄ランド」では、社会情勢を考慮して、全133話のうち、34話が大幅に描き直され、さらに、25話ほどは削除されて欠番扱いとなるなど、この作品の社会への影響力の強さが分かります。


魔太郎がくる!!―うらみはらさでおくべきか!! (1) (少年チャンピオン・コミックス)

また、当時、お遊び感覚で、「あなたの恨みを買います」という雑誌の企画があったのですが、ハガキでは書ききれないとばかりに、便箋に、真剣に恨みを晴らしたいことを綴る投書が多かったことから、

当初、いじめられっ子の気持ちを代弁するという意図(現在でいう「スカッとジャパン」のような)だったものが、途中からは、人類滅亡を賭けた壮大な善と悪の物語という、幻想的なものへと路線変更せざるを得なくなっています。

ちなみに、安孫子さんは、このようなストーリーを思いついたきっかけについて、元NHKの記者、吉村秀實さんとの対談で、

安孫子:あれは、僕の小さいころの思いが強い作品ですね。当時僕はチビでお坊ちゃんでしたし、赤面症で 「電熱器」っていうあだ名だったんですよ(笑)

吉村:今の人は分からないかもしれないけど、電熱器はコンセントを入れてもすぐには赤くならない。じわ~っと赤くなるんですよね(笑)

安孫子:そう(笑)、それで思いついたのが、クラスにいじめっ子は1人か2人だけど、いじめられるほうは残りの40人か50人でしょ。だったらいじめられっ子を超能力のある主人公にして、いじめっ子に復讐する話にすれば共感も得られるし、カタルシスもあって面白いんじゃないかと思ったんですよ。それで描いたら反響が大きかった。その1年半後にいじめが社会問題になってね。

と、明かされています。

「ブラック商会変奇郎」

その後、1976~1977年には、「ブラック商会変奇郎」という作品が、「藤子不二雄」名義で、「週刊少年チャンピオン」に連載されているのですが、この作品も、我孫子さんが執筆された作品。


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この作品は、主人公が、おとなしくてひ弱な中学生、変奇郎なのですが、実は、変奇郎には裏の顔があり、他人の悪行を知ると、口止め料ほか様々な名目で請求書を突きつけて取り立てを行う、恐喝を事業とする「ブラック商会」の経営者で、

相手が、変奇郎を子供だと思ってみくびり、支払いを踏み倒そうとしたり無視すると、凄まじい制裁を加えるというストーリーなのですが、

(変奇郎は、仮面とマントを身にまとい、喪黒福造と同様、相手に人差し指を突きつけて、「ドーン!!!」と叫び、魔力を発揮して制裁を加えるのがお決まり。)

実質的には、「魔太郎がくる!!」から陰湿なイジメの部分を取り除き、主人公をかっこよくしたもので、

もともとは、「魔太郎がくる!!」にドラマ化の話が来た時、テレビでも放送できるように内容を変更したことが執筆のきっかけだったそうです。

ちなみに、この「ブラック商会変奇郎」は、1996年、「シャドウ商会変奇郎」という名前でテレビドラマ化されており(森田剛さんが変奇郎役)、現在も、根強いファンに支持されている作品となっています。


「シャドウ商会変奇郎」より。変奇郎に扮する森田剛さん。

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「まんが道」

こうして、ブラックすぎる作品を執筆し、「黒い藤子不二雄」と呼ばれるようになった我孫子さんですが、

実は、1970年から、複数の雑誌で断片的に連載されている、漫画家を目指す2人の少年の成長を描いた、爽やかな自伝的青春漫画「まんが道」も我孫子さんの作品。(我孫子さんいわく、「実話7割」「創作3割」)

この作品は、主人公の2人の少年が出会うところから、「トキワ荘」を出て行くところ(11歳~27歳)までが、「あすなろ編」「立志編・青雲編」「春雷編」「愛・・・しりそめし頃に・・・」とシリーズ化されており、2013年の完結まで、なんと、43年間も連載が続いていました。

そして、内容的にも、当時の出来事や感情が克明に描かれていることに驚かされるのですが、安孫子さんは、当時、日記をつけられていたほか、出版社から次々と送られてきた締切の督促の電報や、スケッチほか、様々なものを捨てずに取っておられたそうで、そのおかげで、この物語を描くことができたのだそうです。


まんが道(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

さて、いかがでしたでしょうか。

今回は、藤子不二雄Aこと安孫子素雄さんの作品についてまとめてみましたが、ブラックすぎる作品では社会問題に発展した一方で、

「まんが道」では、手塚治虫さん、寺田ヒロオさん、石ノ森章太郎ら数多くの人物が実名で登場するほか、実話のエピソードもふんだんに盛り込まれていることから、この作品を読んで漫画家を目指した人も多いそうで、

いずれにせよ、我孫子さんがいかに多くの人たちに影響を与えてきたかが分かりますね。

時は、昭和から平成を経て令和に変遷していますが、我孫子さんには長生きしてもらって、昭和ならではの良かった部分をこれからも伝えていってもらいたいものです。

「藤子不二雄aの自宅は?妻は?子供は?精進料理しか食べれない?」

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