１９５３年に「ひめゆりの塔」で映画デビューすると、１９５８年には、映画「果しなき欲望」で注目を集め、その後は、テレビドラマ「ムー」「ムー一族」「渡る世間は鬼ばかり」シリーズなど庶民的な役柄を多く演じてこられた、渡辺美佐子（わたなべ みさこ）さんですが、渡辺さんには、長年、ライフワークとも言えるものがあったといいます。
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一人芝居「化粧 二幕」がライフワーク
ところで、渡辺さんは、１９８２年７月、井上ひさしさん原作による一人芝居「化粧」に出演されているのですが、この芝居の上演成果を見た井上さんがもう一幕書き加えたそうで、同年１２月にも、「化粧 二幕」として再演。
以降、「化粧 二幕」は、渡辺さんのライフワークとなり、２０１０年５月まで、２８年に渡って上演されたそうです。
（その間、アジア、フランス、アメリカなどの海外公演を行ったこともあったそうです。）
「化粧 二幕」のあらすじ
ちなみに、この「化粧 二幕」のあらすじをざっとご紹介すると・・・
新たな劇場を建てるため、１０日後に取り壊しが決定している、うらぶれた芝居小屋の楽屋で、大衆演劇の女座長・五月洋子（渡辺さん）は自らの出演を控え、鏡台の前で化粧をしながら、楽屋にいる座員たちに「さあ、いよいよ客入れだよ！」と威勢のよい掛け声を飛ばし、楽屋にやってくる客をもてなしていたのですが、
ちょうどそこへ、テレビ局のスタッフが現れ、昔、乳児院に預けて離れ離れになり、どこかの家にもらわれていった息子が芸能界でスターになっていると告げてきます。
その後、その息子と対面する番組が、ワイドショーの企画として持ち上がり、当初、洋子はとまどうも、芝居小屋の楽屋に訪れた息子と２０年ぶりに再会。
二人は母子としての新たな出発を誓い、洋子はあまりの嬉しさに、この対面の一部始終を、今から上演する芝居に織り込もうとするのですが・・・
という、お話だそうです。
「京セラ」稲盛和夫社長に出資してもらっていた
さて、この「化粧 二幕」、渡辺さんによると、ご主人の大山勝美さんと同郷だった「京セラ」の稲盛和夫社長が、アメリカ上演のため、ポケットマネーで１５００万円出してくれたというのです。
そこで、渡辺さんは、演出家の木村光一さんに、
アメリカでは芝居を観たことないようなお爺さん、お婆さんがいるような小さな町でやってみない？
と、提案すると、木村さんも賛成してくれたそうで、アメリカ（カナダに近い小さな町の大学の講堂）での、４５日間の上演が実現したのだそうです。
アメリカでの反応に手応え
ただ、当時は、日米の経済摩擦が激しく、アメリカでは、日本車やテレビが叩き壊されていたそうで、危険だからと、周囲には止められたそうですが、
芝居は別でしょう
と、敢行。
すると、アメリカでは、離婚や、子どもが置き去りにされることが多く、養子縁組は多いながら、新しい家族に馴染めなかったりと、家族の問題を抱えている人が多かったためか、この芝居をとても喜んでもらえたそうで、
芝居が終わった後、ある金髪の青年がどうしても会いたいと楽屋にやってきて、
僕は小さい時から養子で育てられて本当の母親を知らない。母親って、こんなに素晴らしいものなんですか。
と、言い、渡辺さんの手を握って離さなかったり、
養子の子どもがいるおじいさんが、
実の母親に会わせてあげた方がいいだろうか
と、身の上相談をしてきたり、
子どもと別れた中年の女性が、会っていきなり、ギューッと抱きしめてきたこともあったのだそうです。
そんな経験から、渡辺さんは、
演劇って、『面白かった』『楽しかった』『上手かった』とかもありますが、自分自身それぞれの中に眠っていたそういう感情を揺り動かせる仕事なんだと、アメリカで学びましたね。
と、語っておられました。
28年648回の上演で幕
こうして、長い間、ライフワークとして、一人芝居「化粧 二幕」に出演されてきた渡辺さんですが、２０１０年５月９日、「座・高円寺」での公演をもって、２８年間の幕を降ろされています。（通算上演６４８回）
というのも、「化粧 二幕」の上演は１回およそ９０分なのですが、一人芝居のため、ずっと一人で話しながら、化粧、着替え、劇中劇も演じるなど、すでに８０歳間近だった渡辺さんには過酷となっていたそうで、
にぎやかに舞台を務めていられるうちに、演じ納めにしたい
と、決意。
千秋楽のカーテンコールでは、
舞台の上ではずっとひとりですが、いつも守り、助けてくれるのはお客様。大勢のお客様と拍手のおかげで、『化粧』は２８年もの間、生き延びてこられました。
と、万感の思いで、幕を降ろされたのでした。
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