「マンハッタン無宿」以来、「真昼の死闘」「白い肌の異常な夜」「ダーティハリー」と、次々とドン・シーゲル監督作品に出演し、お互いを「クリントス」「シゲリーニョ」と呼び合うなど、シーゲル監督と強い信頼と絆で結ばれていたという、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)さんですが、そんな二人の関係も、やがて終わりを迎えます。
「クリント・イーストウッドは昔ドン・シーゲル監督と蜜月関係だった!」からの続き
「アルカトラズからの脱出」で8年ぶりにドン・シーゲルとタッグを組むも・・・
蜜月関係を続けていたにもかかわらず、「ダーティハリー」での成功で、特にイーストウッドさんが、ドン・シーゲル監督とやるべきことはやり尽くしたと感じたことなどから、しばらく、タッグを組むことはなくなっていたお二人ですが、
「ダーティハリー」から8年の歳月を経た1979年、脱獄不可能と言われたサンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ刑務所から脱獄したフランク・モリスの実話をもとにした「アルカトラズからの脱出」の脚本を気に入って買い取ったシーゲル監督が、イーストウッドさんのもとへ持ち込むと、
イーストウッドさんもまた、この脚本を気に入り、自らが主演、シーゲルさんが監督を務めることを望んだそうです。
「アルカトラズからの脱出」ではドン・シーゲル監督と対立を繰り返していた
ただ、この8年のブランクの間に、イーストウッドさんは押しも押されぬスター俳優となっていたほか、次々と監督作品も世に送り出していたことで、映画製作の手腕も身につけており、二人の力関係は、「ダーティハリー」の頃とは逆転。
(実際、シーゲル監督がイーストウッドさんに頭を下げてオファーし、企画が実現したそうです)
そのため、撮影が始まると、イーストウッドさんが演出などに口を出し、監督としての立場を譲れないシーゲル監督と、撮影の主導権を巡って対立を繰り返すようになったそうで、
ついに、ラストシーンの撮影では、シーゲル監督は現場から立ち去り、イーストウッドさんとスタッフの手によって撮影され、完成に至ったのだそうです。
(そのため、「アルカトラズからの脱出」は、どちらかというと、イーストウッドさんの色が濃い映画となっているそうです)
「アルカトラズからの脱出」より。
ちなみに、イーストウッドさんによる本作のラストが、脱獄に成功した主人公たちの勝利を描きながらも、その後の過酷な運命を暗示するというものだったのに対し、
シーゲル監督の構想では、刑務所の内部を映し、脱出不可能な牢獄の現実を示して終わるというものだったそうです。
「アルカトラズからの脱出」はドン・シーゲル監督と組んだ最後の作品だった
さておき、こうして、すったもんだで完成し、公開された「アルカトラズからの脱出」ですが、批評家からは絶賛されるも、アメリカでは、それほどのヒットとはならず。
そして、イーストウッドさんは、今後もシーゲル監督と共同で映画製作を行っていくという契約を反故にし、「アルカトラズからの脱出」が、二人がタッグを組んだ最後の作品となったのでした。
ドン・シーゲル監督と決別
ちなみに、イーストウッドさんとシーゲルさんが決別した直接の原因は、シーゲル監督が、この「アルカトラズからの脱出」を自分の作品として主張し、映画の権利を10万ドルで買い取ったことだったようで、
最終的には、「アルカトラズからの脱出」は、「シーゲルとマルパソ(イーストウッドさんの映画会社)の共同作品」という形で合意したものの、以降、二人の関係は戻ることはなく、二度と共同で映画を製作することはなくなったのでした。
「クリント・イーストウッドは「許されざる者」で監督でもアカデミー賞受賞!」に続く