井筒和幸監督映画「ガキ帝国」の出演をきっかけに、舞台から映像の世界へと活動の場をシフトするも、鳴かず飛ばずの日々が続いていたという、國村隼(くにむら じゅん)さんですが、ハリウッド映画「ブラック・レイン」に出演したことで、一気に風向きが変わります。
「國村隼は昔「ブラック・レイン」で松田優作に可愛がられていた!」からの続き
香港映画に数多く出演
1989年、映画「ブラック・レイン」で、ヤクザ・佐藤(松田優作さん)の子分・吉本役に起用された國村さんは、その後、この映画を見た香港映画関係者からオファーが増えたそうで、
1992年「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」(ジョン・ウー監督)
1994年「フル・ブラッド」(ジェフ・ラウ監督)
「さらば英雄 愛と銃撃の彼方に」(トニー・オウ監督)
1997年「野獣の瞳」(パトリック・ウォン監督)
などで、ヤクザのボスや殺し屋を迫力たっぷりに演じると、2003年には、再び、ハリウッド映画「キル・ビル Vol.1」でも、ヤクザの親分役として起用されます。
「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」より。
NHK朝の連続テレビ小説「芋たこなんきん」で日本のお茶の間でも知名度が浸透
また、日本国内でも、
1991年「王手」
1993年「月はどっちに出ている」
「月はどっちに出ている」より。
などの映画で、強面ながらユーモアにあふれた演技を披露すると、徐々に國村さんの評価が高まり、
2006年には、NHK朝の連続テレビ小説「芋たこなんきん」で、37歳の主人公・花岡町子(藤山直美さん)が恋に落ち、やがて結婚する、開業医でバツイチ5人の子持ちの「カモカのおっちゃん」役で、たちまち、お茶の間の人気を博し、
「芋たこなんきん」より。國村さんと藤山直美さん。
同年、映画「CHiLDREN チルドレン」では、豪邸に住む裕福な少年(三浦春馬さん)の父親役、
「CHiLDREN チルドレン」より。三浦春馬さん(左)と國村さん(右)。
2008年には、映画「イエスタデイズ」で、主人公(塚本高史さん)のガンに侵された父親役と、
映画「イエスタデイズ」より。塚本高史さん(左)と國村さん(右)。
それぞれ、良き父親役を演じ、幅広い演技力を披露されています。
韓国映画「哭声/コクソン」では人生初の俳優賞
そんな國村さんは、2017年には、韓国映画「哭声/コクソン」で、平和な田舎の村にやってきた謎めいた男「よそ者」役を演じているのですが、
映画は本国韓国で700万人に迫る動員を記録する大ヒットとなり、韓国の栄えある映画賞である「第37回青龍映画賞」で5冠も獲得。國村さんも、この「第37回青龍映画賞」で「男優助演賞」と「人気スター賞」をダブル受賞するという快挙を遂げています。
(韓国人以外が同賞に輝くのは初めてだったそうですが、國村さんにとっても、初めてもらった映画賞だったそうです。)
「哭声/コクソン」より。國村さん(左)とクァク・ドウォンさん(右)。
「哭声/コクソン」の撮影は超過酷だった
ところで、この「哭声/コクソン」で國村さん演じる「よそ者」は、(ナ・ホンジン監督によると)イエス・キリストがベースになったキャラクターだそうで、劇中、國村さんは、裸で滝に打たれたり、恐ろしい悪魔の様な風貌で鬼気迫る演技を披露しているのですが、
國村さんは、同映画に出演したことについて、
『哭声/コクソン』という作品は、 自分の中でも、ある意味スペシャルなんです。というのも、まず映画として今までにないものですし、今までに経験したことのない現場、作品に携わって、それを観ていただけるまでになったということに、特別な思い入れがあります。
還暦を越えて肉体的にもひと回りしてから、過去を振り返って一番キツイ現場をやったのも初めてです。「やめてくれ」なんて、 日本の現場で一回も言ったことなかったですからね(笑)
ほかの韓国の監督さんがおっしゃっていました。 「『哭声/コクソン』の現場を韓国のスタンダードだと思わないでくれ。ナ・ホンジン(監督)の現場が大変なだけだから!」と(笑)
すべてのことが初めてという経験に近いものでした。こういうキャラクターをやったことも、韓国映画に出演したこともそうですし、自分にとっては新鮮な経験でした。
肉体的には非常にハードで、たぶん今までやった映画の中でいちばん体力を使った映画だったと思います
と、非常に過酷な撮影だったことを明かしつつ、
自分が知らない国の人たちと映画を作ることをすごく面白がれるんです。僕が初めて映画というものにふれたのは、井筒和幸監督の『ガキ帝国』(81)でしたが、10年後くらいに『ブラック・レイン』でハリウッドのシステムを知り、その後、香港でもいくつか撮りました。
そう考えてみると、映画のスキルはまず外から入ってきているのかもしれない。そういう経緯があるから海外で知らない人とやることに違和感がないし、自分にとってはどこか当たり前なことでもあります。
結果、初めてやった韓国映画で賞もいただいて、また韓国のお客さんたちが日本の俳優に少しでも興味をもってくれたらうれしいことだとは思いますが。映画というメディア自体は1つの国の中に収まっているものじゃないですし
と、韓国映画ということでも、特に気負いなく、楽しんで撮影することができたと、語っています。
ナ・ホンジン監督とは互いにリスペクトし合っていた
また、ナ・ホンジン監督は、
みんなが國村さんを見てびっくりしていました。國村さんは外見だけではなく内面の深さにも斬り込んでいく。私自身、あそこまでプロフェッショナルな演技をされる方は初めて見ました。
國村さんの演技を見る時は、どういう演技をしてくれるのか好奇心の方が大きくて、毎回撮影をするのが楽しみでした。國村さんはいつも私が考えていた以上のものを作ってくださる。
今回多くのことを学ぶことができましたし、いろんなことで助けてもらいました。本当に尊敬に値する大先輩で、大好きです
と、國村さんのことを大絶賛しているのですが、
國村さんもまた、そんなナ・ホンジン監督のことを、
才能が人の形をしたような人
と、絶賛しており、息ピッタリのタッグだったようです。