なんとか、シンガー兼下働きとしてバンドに入り、大阪、京都、名古屋のジャズ喫茶を回るようになるも、先輩からはひどいイジメを受け、そのうえ、肝心のジャズ喫茶の人気も低迷していき、先行きの見えない苦しい日々を耐え忍んでいた、西郷輝彦（さいごう てるひこ）さんですが、ついに、運が回ってきます。
「西郷輝彦は下積時代に凄まじいイジメを受けていた！」からの続き
後のサンミュージックプロダクション会長・相澤秀禎にスカウトされる
先行きの見えない不安な毎日の中、シンガー兼下働きとしてジャズ喫茶回りを続けていた西郷さんですが、そんな中、大阪のジャズ喫茶「ナンバ一番」で歌っていると、後に、西郷さんのマネージャーとなる相澤秀禎さん（後にサンミュージックプロダクション代表取締役会長）がやってきて、
ユー、オーラがあるよぅ
と、声をかけてきたそうです。
ただ、西郷さんは、「オーラ」という言葉の意味が分からず、
へ？なんですか、それ？それってオイラはドラマーだってことですか？
と、冗談まじりで答えると、
相澤さんは、
（チッチッチッ、と人差し指を左右に振りながら）違うよ。オーラだよ、オーラ
と、繰り返したそうで、
西郷さんが、
あなたはどなたですか
と、尋ねると、
「竜巳プロダクション」と書かれた名刺を差しだされ、スカウトされたそうで、西郷さんがファンだった松島アキラさんや黛ジュン（当時・渡辺順子）さんが所属していると聞き、すぐに上京を決意。
こうして、西郷さんは、「竜巳プロダクション」に入社したのでした。
（ただ、この時、すでに松島さんと黛さんは２人とも「竜巳プロダクション」を辞めていたそうです）
相澤秀禎さん（左）と西郷さん（右）。
「竜巳プロダクション」に入社するもほとんど仕事がない日々だった
上京後は、「竜巳プロダクション」の社長宅に居候し、バンド「ウェスタンキャラバン」に入った西郷さんですが、滅多に仕事はなく、驚くほど暇でやることがなく、多摩川でキャッチボールをする毎日だったそうで、
まれに入る仕事はというと、浅草のキャバレーでのヌードショーの伴奏だったため、歌は必要なく、西郷さんは仕方なくバンドの後ろの方でパーカッションやパカスを叩いていたのだそうです。
（「ウェスタンキャラバン」は、もともと、相澤さんが大学在学中に結成した演奏バンドだったのですが、西郷さんがスカウトされた頃は、既に相澤さんはプレイヤーとしては抜け、マネージメントに専念されていました。）
「コロンビアレコード」のディレクター・長田幸治からスカウトされる
そんなある日のこと、西郷さんが、浅草のジャズ喫茶「新世界」で歌を歌い終わると、客席で西郷さんの歌を聴いていた「コロンビアレコード」のディレクター（当時）の長田幸治さんに呼ばれ、突然、
レコードを出してみないか？
と、声をかけられたそうです。
（この時、「コロンビア」から枝分かれする形で新会社「クラウンレコード」が設立されることが決まっていたそうで、長田さんはそのための準備を進めており、新人を発掘している時だったそうです）
そこで、西郷さんは、
長田さん、あなたは一体、どういうことを今までしてこられた方なのですか？
と、単刀直入に尋ねると、
長田さんは、
飯田久彦とか、守屋浩の「僕は泣いちっち」をこれまでやってきた。浜口庫之助さんの「黄色いサクランボ」も
と、答えたそうで、西郷さんは、それを聞いて、一瞬、凄いと思ったそうですが、
長田さんが、これからは、北島三郎さん、美空ひばりさん、五月みどりさんのレコードも出すと言ったことから、西郷さんが、生意気にも、
演歌ばかりじゃないですか
と、言うと、
長田さんは、
そういう人たちもいるけれど、私はポップス系だから。私が君を担当するから
と、言い、
西郷さんが
で、どういう曲をぼくは歌うのでしょうか？
と、尋ねると、
それは歌謡曲だよ。ちょうど今、舟木一夫っていう人がすごい人気だろ。あの路線で君らしいものを歌ってほしいんだな
と、長田さんは答えたのだそうです。
ただ、西郷さんは、ジャズ喫茶で、ジャズ・シンガーのナット・キング・コールの「ランブリング・ローズ」やエルヴィス・プレスリーの曲など、外国人の歌を歌っており、「これしかない」という感覚だったことから、日本語の歌には興味がなく、
いや、それはちょっと・・・やっぱり今みたいにロックを歌っていたいのです
と、難色を示すと、
長田さんは、
あ、大丈夫だよ。心配しなくてもいいよ。一発、当てれば、あとは君の好きなようにやれるようになるから
と、言ったそうで、
それならばと、西郷さんは、長田さんについていこうと決意したのだそうです。
「西郷輝彦はデビュー曲｢君だけを｣でいきなり大ヒットしていた！」
