様々なアーティストやアイドルに数多くの楽曲を提供するほか、プロデュース業も行っていた、大瀧詠一(おおたき えいいち)さんですが、松田聖子さんにも7曲もの楽曲を提供していました。
今回は、大瀧詠一さんが松田聖子さんに提供した楽曲のうち5曲が収録されている、アルバム「風立ちぬ」(1981年10月21日リリース)の制作エピソードや、松田聖子さんとのエピソードについてご紹介します。
「大瀧詠一は山下達郎の声に衝撃を受けプロデュース&デビューさせていた!」からの続き
大瀧詠一が松田聖子に提供(作曲)した楽曲は?
大瀧詠一さんが松田聖子さんに提供(作曲)した楽曲は、
- 風立ちぬ
- 冬の妖精
- ガラスの入江
- 一千一秒物語
- いちご畑でつかまえて
- Rock’n’ roll Good-bye
- 四月のラブレター
の全7曲なのですが、
そのうち、「風立ちぬ」「冬の妖精」「ガラスの入江」「一千一秒物語」「いちご畑でつかまえて」は、1981年10月21日に発売された松田聖子さんの4作目のアルバム「風立ちぬ」の″Side A″に収録されています。
また、このアルバム「風立ちぬ」は、大瀧詠一さんのほか、鈴木茂さん(″Side B″の「白いパラソル」以外の編曲)や松本隆さん(全曲を作詞)も携わり、細野晴臣さん以外の元はっぴいえんどのメンバー中心となって制作されました。
大瀧詠一は自身の「A LONG VACATION」と松田聖子の「風立ちぬ」の収録曲が対になるように制作していた
また、大瀧詠一さんは、「風立ちぬ」が発売される7ヶ月前の1981年3月21日、自身のアルバム「A LONG VACATION」をリリースしているのですが、
- 「君は天然色」(大瀧詠一さん)⇒「冬の妖精」(松田聖子さん)
- 「雨のウェンズデイ(大瀧詠一さん)」⇒「ガラスの入江」(松田聖子さん)
- 「恋するカレン」(大瀧詠一さん)⇒「一千一秒物語」(松田聖子さん)
- 「FUN×4」(大瀧詠一さん)⇒「いちご畑でつかまえて」(松田聖子さん)
- 「カナリア諸島にて」(大瀧詠一さん)⇒「風立ちぬ」(松田聖子さん)
と、その収録曲と対になるように、「風立ちぬ」の曲を制作したといいます。
というのも、大瀧詠一さんは、これまで松本隆さんと組んだ作品は、「はっぴいえんど」などでの実験的な作品ばかりだったことから、「風立ちぬ」は、歌謡界で商業的に通用するかどうかの試金石だったのだそうです。
(結果、このアルバムがヒットしたことで、自信になったそうです)
大瀧詠一は「風立ちぬ」の切ない歌詞に対して明るく前向きな曲を制作していた
ちなみに、この「風立ちぬ」ですが、実は、CBS・ソニーのプロデューサーの若松宗雄さんが、デビュー2年目の松田聖子さんに対し、独自のアーティスト性を見出そうと、自身の大好きな小説「風立ちぬ」(堀辰雄作)を題材に新曲を企画したものだったそうで、
(すっかり定着した”ぶりっ子”というイメージから脱却させる目論見もあったそうです)
若松宗雄さんが、作詞を担当する松本隆さんに、
一過性のアイドルではなく、長くみなさんに愛してもらえるようなシンガーにしてください
と、依頼すると、
松本隆さんは、相思相愛でありながら、別れなくてはいけない事情があり、自ら彼のもとを去ったものの、悲しみに暮れ、彼の元に戻ろうかと迷う女性を主人公に、
帰りたい 帰れない あなたの胸に
風立ちぬ 今は秋 今日から私は 心の旅人
涙顔 見せたくなくて すみれ・ひまわり・フリージア 高原の テラスで手紙 風のインクで したためています SAYONARA SAYONARA SAYONARA
と、実に切ない歌詞を書き上げたそうです。
ところが、大瀧詠一さんは、この歌詞に対し、彼の元を去った女性が一人で生きて行こうとする、強い決意をうかがわせる、どこか前向きな気持ちになれるような、明るい曲を提供。
実は、大瀧詠一さんは、「風立ちぬ」を作曲するにあたり、歌詞を見ずに、タイトルが書いてある表面の1枚目だけをじっと見て曲を作ったそうで、メロディが完成した後、歌詞を読むと、言葉数が多くてびっくりしたといいます。
大瀧詠一は松田聖子にほぼぶっつけ本番でメロディを覚えさせていた
また、大瀧詠一さんは、曲を提供する際、デモテープを作らず、何もない状態でスタジオに来てピアノの前に座り、その横に松田聖子さんを立たせて、「じゃあやってみよう」という感じで、松田聖子さんにメロディを覚えさせ、歌わせながら曲作りを詰めたそうで、
(多くの作曲家は曲を作る場合、まずデモテープを作成してオケを編曲家に作ってもらい、それを歌い手に渡して曲を覚えてもらうというやり方をとるそうです)
大瀧詠一さんは、いろいろと閃(ひらめ)くため、ちょこちょこメロディを変えてしまうことがあり、そのため、松田聖子さんは、せっかく覚えたメロディをもう一度、一から覚え直さなければならず、かなり苦労し、
若松宗雄さんに、
大瀧さんと話して、もっと分かりやすいようにしてください
と、依頼することもあったといいます。
さらに、このレコーディング時、松田聖子さんは、過酷なスケジュールに追われ、喉の酷使で声の状態が非常に悪く、思うように発声できなかったうえ、大瀧詠一さんの指導が大変厳しかったことから、スタジオに向かうのが嫌でバスの中で泣いたこともあったといいます。
大瀧詠一は松田聖子の表現力を称賛していた
それでも、松田聖子さんは、大瀧詠一さんの「風立ちぬ」に対する情熱に応えるように、回を重ねるごとに表現力を増していったことから、
無事、レコーディングが終了すると、大瀧詠一さんは、作品の出来栄えに松田聖子さんを称賛したそうで、
後に、大瀧詠一さんは、
「歌えました!」と、笑顔で録音スタジオのブースから出てきた松田聖子さんの姿が印象的だった
と、語っています。
大瀧詠一の幻の楽曲「いちご畑でFUN×4」が松田聖子のアルバム「SEIKO MATSUDA 2020」に収録
それから歳月が流れ、2020年9月30日、松田聖子さんは、デビュー40周年記念アルバム「SEIKO MATSUDA 2020」をリリースしているのですが、
このアルバムには、大滝詠一さんが自身の楽曲「FUN×4」(アルバム「A LONG VACATION」に収録)と対になるように松田聖子さんに提供した楽曲「いちご畑でつかまえて」(アルバム「風立ちぬ」に収録)を編集した楽曲「いちご畑でFUN×4」が収録されているそうで、
(大瀧詠一さんは、1981年、自身のラジオ番組「GO! GO! NIAGARA」で、「FUN×4」と「いちご畑でつかまえて」の2曲をつなげた音源を1度だけオンエアしているのですが、これまで、どのアルバムにも収録されていなかったため、ファンの間では、幻の楽曲とされていました)
松田聖子さんは、
(大瀧詠一さんには)いろいろなことを教えていただき、その時間は、私にとって素晴らしい経験となりました。本当に素晴らしい方でした。もう1度、アルバムをプロデュースしていただきたかったです
と、コメントしています。
(「SEIKO MATSUDA 2020」には、2001年以降に再編集したマスター音源を採用した「いちご畑でFUN×4」が収録されています)
大瀧詠一と松田聖子のデュエット「風立ちぬ」がアルバム「Bible-milky blue-」に収録
また、松田聖子さんは、2023年10月25日には、アナログ盤ベストアルバム「Bible-milky blue-」をリリースしているのですが、
このアルバムには、「風立ちぬ」のレアバージョン「風立ちぬ(duet version)松田聖子×大滝詠一」が収録されているといいます。
これは、大瀧詠一さんが、1981年、シングルレコーディング時に、遊び心で、「風立ちぬ」をエディットしてデュエットソングとして誕生させた未発表音源だそうで、2023年、新たにデュエット曲として誕生したのだそうです。
1969年9月、「ヴァレンタイン・ブルー」(後に「はっぴいえんど」)に加入すると、1970年代は、「はっぴいえんど」のヴォーカル兼ギターとして活躍した、大瀧詠一(おおたき えいいち)さん。 そんな大瀧詠一さんは、歌を歌う …