「秋日和」(1960年)、「小早川家の秋」(1961年)と、小津安二郎監督作品に出演すると、小津監督のことを「オシャレでやさしく、本当に素敵な男性」と語っていた、司葉子(つかさ ようこ)さんですが、黒澤明監督はそういうわけにはいかなかったようです。
「司葉子が語る小津安二郎監督とは?」からの続き
黒澤明監督作品「用心棒」に出演
司さんは、1961年、黒澤明監督作品「用心棒」に出演しているのですが、
撮影の初日、スタジオに向かって歩いていると、黒澤監督とばったり出会ったそうで、「おはようございます」と挨拶すると、
司さんの出演シーンはそう多くなかったそうですが、黒澤監督は、司さんを気遣い、頭を抱え込むようにして現場まで連れて行ってくれたそうで、司さんは、この時、「なんて、優しい人なんだ」と思ったそうですが・・・
「用心棒」での黒澤明監督の三船敏郎への演技指導は鬼のようだった
現場では一転、非常に厳しかったそうで、特に、主演の三船敏郎さんへの演技指導は、見ていて本当に地獄で、鬼そのものだったそうです。
(黒澤監督は、普段は普通の人だったそうですが、一旦、現場に入り、俳優(男性)と一対一になると、絶対に自分のペースを崩させないよう、少しの隙も見せず、何があっても譲らない人だったそうです)
ちなみに、黒澤監督は、撮影の準備の時、本番まで座って待っている三船さんに対し、照明をギラギラと強く当てていたそうですが、なんと、そのライティングにより、三船さんの背中は焼け、煙が出ていたそうで、
司さんたちは、
あっ、三船さんの背中が燃える!
と、焦ったそうですが、黒澤監督は知らん顔だったそうです。
三船敏郎はキレてしばしば黒澤邸の前で叫んでいた
そんなことから、三船さんは、夜9時くらいになると、毎日のように、黒澤監督の自宅前までオープンカーで乗りつけ、
ばかやろう!ばかやろう!
と、日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすように叫んでいたのだそうです。
(当時、黒澤監督は俳優が多く住む「日本のビバリーヒルズ」と呼ばれる成城に住んでいたそうですが、近所の人は、「また始まった」という感じだったそうです)
「用心棒」では山田五十鈴に髪を掴まれて振り回され本気で痛みをこらえていた
また、ある女優が板に縛られ、そこに矢が放たれるシーンでは、テグスを操作するトリックがしてあったそうですが、あまりにもリアルすぎて見ていられなかったそうです。
そんな中、司さんはというと、山田五十鈴さんに髪の毛を掴まれて振り回されるシーンがあったそうですが、山田さんには、本気で髪の毛を力いっぱ引っ張られたそうで、痛くてたまらず、本当に山田さんが鬼に見えたそうです。
(ここでも、黒澤監督の演技指導はリアリティを追求していたそうです)
「用心棒」より。山田五十鈴さんに強く髪を掴まれ本気で痛みをこらえていたという司さん。