大学進学後は、酒とケンカに明け暮れる、無軌道な日々を送っていた、高倉健(たかくら けん)さんですが、ある偶然の出会いから、俳優になることに。そして、会社からは特別待遇でバックアップを受けるのですが・・・
「高倉健の生い立ちは?大学時代は酒とケンカに明け暮れていた!」からの続き
就職できず実家に帰るも再び上京
大学時代は、酒とケンカに明け暮れる、行き当りばったりな日々を送っていた高倉さんでしたが、それでもなんとか、1954年には大学を卒業。
卒業後は、デパートや外国の航空会社などの就職先はあったそうですが、希望する就職口がなかったことから、九州の実家に帰り、しばらくは、お父さんが手掛けていた砕石業の仕事を手伝ったそうです。
しかし、それから半年後には、
ベルトコンベヤーのような人生だけは、送りたくない!
このままじゃ埋もれてしまうと思ったんですね。それに、東京に好きな女の子がいまして、彼女と一緒になりたくて家出したんです
と、東京にいる彼女との結婚を両親に反対されたことがきっかけで、家出同然に再び上京したそうです。
マキノ光雄にスカウトされて「ニューフェイス第2期生」として東映に入社
ただ、東京では、持参したお金をすべて使い果たしてしまい、布団まで質に入れなければならないほど、生活が苦しくなったそうで、困り果てた高倉さんは、大学時代の恩師に相談。
すると、その恩師は、「新芸プロダクション」のマネージャーの口を紹介してくれたそうで、高倉さんは、当時、東京の京橋にあった「東映」本社の階下の喫茶店「メトロ」に面接を受けに行ったそうですが、
(当時、「新芸プロダクション」には、美空ひばりさん、中村錦之助(のち萬屋錦之介)さんらが所属されていました)
その時、たまたま居合わせた「東映東京撮影所」の所長で映画プロデューサーのマキノ光雄さんに、
君は、映画俳優になる気はないか?
と、声をかけられたそうで、
ワラをもつかむ気持ちだった高倉さんが、
はい
と、答えると、
明日、カメラテストだ
と、言われ、翌日、撮影所に行くことに。
そして、見事テストに合格した高倉さんは、「東映ニューフェイス第2期生」として「東映」に入社することができたのでした。
ただ、後に、高倉さんは、
撮影所で顔にドーランを塗られてね。何か身を落としたみたいで、涙が出ましたよ
と、屈辱的な思いをしたと語っておられます。
「俳優座養成所」では落ちこぼれだった
さておき、晴れて、「東映ニューフェイス第2期生」として「東映」に入社した高倉さんですが、
演技の基礎を学ぶために預けられた「俳優座養成所」では、
目つきが悪い
と、言われたうえ、バレエを踊れば教室中が笑い転げ、日舞を踊っては着物の裾が割れたと叱られたそうで、何をやってもうまくできず、
ついには、指導教師から、
他の人の邪魔になるから、見学していてください。俳優になるのはあきらめたほうがいい
とまで言われてしまったそうで、
高倉さんは、後に、雑誌「アエラ」(1999年6月7日号)のインタビューで
屈辱ですよね、そりゃ。僕の俳優人生は、このコンプレックスから始まったんですよ。その思いはずっと続いてて、いまだに役作りができませんね
と、語っておられます。
厚待遇でデビューするもパッとせず
それでも、当時は、時代劇が全盛で、現代劇のスターが不足していたことから、「俳優座養成所」では落ちこぼれでも、180センチの長身で精悍(せいかん)な顔立ちの高倉さんは、
入社わずか1ヶ月半という異例のスピードで、1956年、「電光空手打ち」の主役に抜擢され、早くも映画デビューを果たします。
(当時、東映では、「ニューフェイス」は、「俳優座養成所」で6ヶ月研修したのち、さらに、撮影で6ヶ月間は見習い修業することが決まっていたそうです)
「電光空手打ち」より。
ただ、同年、「日活」からデビューした石原裕次郎さんがまたたく間にスター街道を駆け上っていく一方で、
高倉さんはというと、「東映」の期待を一身に背負い、アクション、コメディ、青春もの、戦争ものなど様々なジャンルの現代劇に出演するほか、さらには、看板俳優の片岡千恵蔵さん、中村錦之介(のちの萬屋錦之介)さん、美空ひばりさんらと共演するも、いまひとつパッとしなかったのでした。
美空ひばりは相手役の高倉健に不満を抱いていた
ちなみに、「東映」のプロデューサーだった岡田茂さんは、美空ひばりさんの主演シリーズ「べらんめえ芸者」の2作目から、美空さんの相手役に高倉さんを起用し、高倉さんの知名度を上げ、人気を高めようとしたそうですが、
粋(いき)さが求められるこのシリーズでは、派手さや洗練された雰囲気が求められるのに対し、高倉さんの演技は硬く、にじみでる暗い陰や、低く抑揚のない声などから、地味で暗い雰囲気が漂ったため、
美空さんは、高倉さんと組まされ続けることに、不満を抱くようになったと言われています。
「高倉健が若い頃はひたすら筋トレし任侠映画でブレイク!」に続く
「べらんめえ芸者」より。高倉さんと美空ひばりさん。